WJ
銀魂
相手)坂田銀時
銀時×ヒロイン|恋人|真選組女中
銀時side
『銀時、歌舞伎町に新しく甘味所が出来たんだって』
「……」
『ねぇ、行ってみたくない?』
「……」
『凄く美味しそうだよ』
「うるせーんだよ!」
銀時の怒鳴り声が、シンとした部屋中に響く。何もそんなに怒ることないのに。銀時が好きだと思って、教えてあげただけなのに。何より、可愛い恋人に向かって怒声を上げるとは……。
「俺を見てみろ」
彼の手には、資料らしき紙が握られている。そういえば来た時には、もう握っていた気がする。それをさっきから真剣な眼差しで、読んでいたような気もする。どうやら次の仕事に関する
朝一番にやって来た※※は、ソファーに座って資料を見ている俺のすぐ隣に腰を下ろした。朝早くから何を言い出すのかと思えば、
『銀時、歌舞伎町に新しく甘味処が出来たんだって』
食べ物の話ですかっ!まぁ、甘味っていう部分には惹かれるものがあるが、今の俺にはそれ以上に重要な用事があるわけで。正直今は、※※につき合ってる暇はないのだ。
いつもの俺とは様子が違うのは、見りゃわかるだろうに。※※は気づいているのかいないのか、尚も話を続ける。
『ねぇ、行ってみたくない?』
「……」
『凄く美味しそうだよ』
「うるせーんだよ!」
思わず、声を荒げてしまった。シンとした部屋中に響く。※※の顔は“そんなに怒ることないのに”的な表情を浮かべてる。普段の俺なら、仕方なく※※の話に付き合ってやるんだけどよ、マジ今日はダメだった。恋人に怒声をあげるとか、多少なり俺も心が痛むが……。
「俺を見てみろ」
俺は手にしている資料を、※※の目前に向ける。これは、久しぶりにきた仕事の資料だった。真選組の女中をして、収入が安定している※※とは違うのだ。
どんなに小さな仕事でも、誠心誠意受けるのが万屋銀ちゃんだ。とはいうのは建て前で、本当は仕事の選り好みが出来ない厳しい家計状況だった。
「※※さん、銀さんは今忙しいんだよ!久しぶりの依頼だからな」
『良かったじゃない』
「だったら、黙って静かにしていろ!ペラペラと喋りやがって。営業妨害かっ?」
『ひどっ』
「なァ、※※。お前本当は、構って欲しいだけなんだろ」
ペラペラと喋りかけるのは、気を引きたい時ガキがよく使う手だ。箱入りで育てられてるせいか、少々我が儘なところがあるというか……。
だが、彼女の話を聞いて、ただの自分勝手な我が儘というわけじゃないようだった。
『銀時が喜ぶと思ったんだもん。だから、二人で行きたくて……。もういい!ばかっ!』
突然、声を上げて怒り出す※※。その瞳にはぶわっと涙が浮かぶ。それには流石に、ぎょっとしてしまった。泣かすつもりはなかった。ただ、俺がどれだけ真剣に取り組んでいるかを、知って欲しかっただけ。
声を上げた後、何も言わずに帰ろうとする※※。肩が僅かに震えている。華奢な身体が、ますます小さく見えた。来た時とは違う、消え入りそうな程しゅんとなっている※※を、背後からぎゅっと抱きしめた。彼女の優しい体温が伝わってくる。
「……悪かった」
※※の耳元で、静かに囁く。俺が喜ぶと思って、朝早くから駆けつけて来た※※の気持ちを、あまりにも邪険に扱いすぎた。流石に反省する。
抱きしめたらおさまるかと思った震えは、ますます強くなって。想いが込み上げてきたのだろう。気持ちが落ち着くまで、※※の華奢な身体をずっと腕の中に閉じ込めた。