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イレギュラーな俺への注目から逃げる様にサッと視線を反らしそのまま誰とも合わない様に俯いた。視線が痛い。

一通り漫画を読んだ事のある俺でも主人公達の名前と顔位はちゃんと知っていた。
紙の上の登場人物が目の前にいるなんてこれがとき愛ゲームの女の子達なら俺は大喜びで握手を求めてただろう。いや彼らに会う事も充分に凄い奇跡には変わりないから嬉しいけども!
いかんせん空気がね、…空気が重い気がするんですよ。誰だお前的な?そんな雰囲気。
とてもじゃないけど声なんてかけられない。
俺は黙って空気を読んだ。


「もう体はいいみたいね、船に乗っていて驚いたでしょ?」

思ったよりもフレンドリーな明るい声で話かけられたので顔を上げるとショートカットの綺麗な女性、ナミが少し困った表情で笑いかけてくれた。

「あの島のログってすぐ溜まっちゃうから悪いけど出航させてもらったわ。あなたを連れ出すつもりは無かったのよ?」

「あ、いえそれは全然大丈夫です。…俺を介抱してくれてありがとうございました」

海賊と知って怯えていると勘違いしたのかナミは丁寧に説明してくれる。気絶した俺をそのまま放っておく訳にも行かず海賊船に乗せた事を気にしているみたいで俺は首を横に振った。あんな巨大なイノシシがいる島に残されなくて本当によかった。

「なんて清楚で愛らしく可憐なレディ!俺は君と出会う為に生まれて来たんだ!」

ビュンッと目にも止まらぬ速さで目の前に現われたぐる眉の金髪男、サンジが俺の両手を取ると握りしめて来た。周囲にハートを飛ばしてる相手から思わず手を引っ込めれば「恥じらう姿も素敵だあああ!!」と叫んでる、恥じらってんじゃなくてお前に引いたんだよ!

そんな友好的?な二人に対しマストの側で胡座を掻いて座っている緑頭の腹巻男、ゾロは打って変わり厳しい目つきで俺を見た。

「お前、何者だ?」

「このクソマリモ!レディにガン飛ばしてんじゃねぇ!!」

「うるせぇエロコック!!てめェは黙ってろっ!!!」

「ああ゛!!!三枚におろすぞヘボ剣士!!!」

至極まともな事を聞いたはずのゾロといきなり口喧嘩を始めるサンジに気圧されてビビっている俺と違い他のクルー達は慣れた様子でそのまま話を続けた。

「あそこは無人島のはずよね?」

「ええ、人が住んでいる形跡も私達以外の船もどこにも無かったわ。」

ナミとロビンは互いに頷きあっては俺へ視線を向け、そして同じ様にウソップとフランキー・チョッパーからも訝しげな顔で見られる。

“お前は何者だ?”

5人の目は言葉にしなくても言外な意味を込めてそう俺に問いかけていた。

聞かれたって俺にもどうしてあそこにいたのか分からない。
部屋から出たら無人島にいました!なんて言って誰が信じてくれる?異世界から来たなんて言ってみろ危ない奴確定だ。だからって誤魔化すにしてもいい案は浮かばないし黙っていたって俺の印象が悪くなるだけだし…


「俺、異世界から来ました。」

悩んだ挙句に出てきた言葉。
人間正直に話せば何とかなる気がした。所詮自棄糞である。

流石に俺の突飛な発言に喧嘩してた二人も動きを止めた。

「ホントです!この世界じゃない場所に居たけどなんか気づいたらあの島にいて…俺も最初は夢だと思ってたけど、現実みたいだし。」

この世界が漫画の世界だって事も言おうかと思って、やめた。
ワンピースの知識もちゃんとある訳でも無い俺がペラペラと言葉にして気味悪がられたら傷つくし、何より俺という漫画には存在しない筈の人間が現れてストーリーが変わってしまっているかもしれない。
だから今は伏せておく。

そして予想通り皆複雑な顔してる。
ああ、可哀想な子なんだなと…主に頭が。

若干哀れみの含まれる視線と無言が辛い。


「お前、別んとこから来たのか?すんげぇな]」

「ちょっとルフィ!!何言ってんの!!」

そんななんとも言えない微妙な空気をぶち破った麦わら帽子を被った一味の船長である、ルフィただ一人だけ目を輝かせて俺を見つめる。ルフィをナミが嗜めるが今の心細い俺にとって信じて(?)くれたその一言が嬉しかった。さらに別の所からもまさかの助け舟が現れる。

「異世界から、ね……あながち嘘ではないかも知れないわ。」

じっと俺を見つめて不敵な微笑で同意してくれたロビンにクルー全員びっくりしてる。俺もびっくり。
一同の心情をすぐに理解したロビンは構わずにそのまま言葉を続けた。

「前に読んだ文献にどこからともなく現われた人間が異世界から来たと言ったそうよ。空から落ちてきたとも、海からやって来たとも色々な諸説はあるけれど…このグランドラインなら不可思議な事が起こってもおかしくないわ。」

博識な彼女の言葉には説得力があるらしくで他のクルー達も半信半疑な顔ではあるけれど一応納得してくれた様だった。ロビン様様!
そんなロビンはチラリと俺へ視線だけ向けニコリとどこか意味深な美しい笑みを作る。エキゾチックな美人に微笑まれて流石の俺もドギマギ。

「ふん、怪しい行動すれば俺が斬る」

「誰がさせるか、マリモヘッド!」

「上等だ、クソコック!!」

再び口喧嘩を始める二人にナミが拳を叩き込んだり、キラキラ目を輝かせるチョッパーとそんなものかと言い合うフランキーとウソップ

俺の前にひょっこり出てきたルフィは楽しそうな声で話かけてきた。

「お前、おもしれエな!名前なんて言うんだ?」

「…名無田 名無し」

「そうか!俺はルフィ、海賊王になる男だ!」

堂々と名を名乗るルフィの姿に一種の感動。
本物だよ本物!生の海賊王宣言にやっと張り詰めた気持ちが楽になって俺もぎこちないながらも笑顔を浮かべ返す。


しかし、そのルフィを囲むかの様にキラキラした光を纏って真っ赤な薔薇が咲く映像が俺には見えた。



え?


崩壊する物語論
(それは突如として起きる。……なんだアレ)


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