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2ブロック越えて角を曲がると大通りに変わり露天が立ち並ぶ市場があった。
忙しない客寄せの声とがやがやと賑わう活気さにほうと息がもれる。

気になる露天があれば中を覗き、何度か素見しをくり返していた俺の前をふわりと白い煙が流れる。顔を上げればいつの間にかサンジが立っていた。

こんな所でバッタリ会うなんてもちろん予想しておらずびっくりして目を丸くしてる俺に構う事無く咥えたタバコから再び煙を吐き出し、髪に隠れていない片目で視線を寄越される。

「え、なんでいんの?」

「なんでも何も買い出しに決まってんだろ」

麦わら一味のコックであるサンジが食材の買い出しの為に市場に居たって何らおかしくはない、当たり前な事を聞いてしまったと返されてから気付きはははと笑ってごまかした。

「ったく…てめぇ一人で飛び出して行きやがってロビンちゃんに心配かけさせんじゃねーよ」

サンジの言葉に気まずくて逸らしていた視線を戻せば不快そうに眉根を寄せた顔。
「ごめん」と俺の口から気落ちした声が出た。

もしかしてロビンに気遣いわざわざ俺を探してくれてたのかと恐る恐る顔を上げる。
まだ言いたりなさそうに俺を見ていたサンジは再び口を開くもなぜか視線を逸らし小さく舌打ちした。ホントすみません…。

とりあえず目的の酒場はまだ先の様だしここはサンジの買い物に付き合おうと一緒に歩き出す。
しかし、いざ一緒にとなると黙々と買い出しを続けるサンジの隣で俺は特に手も口も出せずに黙ってしまう。

目利きの才なんてある訳もなく世間話を振るにも真剣な横顔を見てしまうと邪魔したら悪いよなと声もかけづらい。気のおける友人とかならば遠慮せず普通に会話出来るだろうけど相手はサンジ
特にこれといって親しい間柄でもないから俺は大人しくしているしかないのです。

「そこのお嬢ちゃんよかったらコレ食べてみないかい」

サンジが野菜売りの老婆と会話をしている傍らでどうしたもんかと悩んでる俺の肩を誰かが叩いた。
呼び声に振り向くと果物を売る壮年の男がいて、バナナやらリンゴやらが山の様に積まれた果物の中から一押しとばかりに勧めてきたのは、

「…ライチ?」

「うちのライチはうめぇぞ!一つ食ってみな!」

「いや、俺お金持ってない」

俺の断る声にも構わずに男は「いいからいいから」と気前のいい笑顔で押し付け、気が引けつつも一つ受け取った。
赤いウロコの様な皮に包まれたライチには食べやすい様に既に切り込みがあり、皮を剥こうとするが思いのほか固く表面のトゲも痛い。そこまで不器用では無いと思っていたのに剥こうとするが剥けず四苦八苦。

「何してんだ」

ライチと格闘をしてる俺の前に影がかかり顔を上げると会話が終わったらしいサンジが俺の手元を覗く。そして早々に現状を理解したらしく固い皮に包まれたライチをヒョイっと俺の手から取り上げるた。

そして非難の声を俺が上げるより早くサンジは意図も容易くあっさりと俺が苦労していたライチの皮を剥いた。手間取ってたから剥いてもらえて助かりましたがなんか悔しい。
でもまぁ相手は一流のコックだ、張り合ったってしょうがない。

ありがとうと受け取ろうとしたがつるりと剥かれた瑞々しいライチの果汁は今にも溢れ落ちそうになっている。手がベタベタになるのは嫌だなぁ。

「食うならさっさと…」

中々受け取ら無い俺にサンジが痺れを切らした様だかそんな事は気にせず、毛先に触れない様に横髪を耳にかけてから俺はライチを持つサンジの手首を掴んで引き寄せると艶やかな果肉に歯を立てた。
これなら手も汚れない、頭いいな俺。

ライチの特有の上品な香りと甘さは今まで食べたライチの中でも群を抜いて美味い。大きな種子を避けながら俺はかじりかじりと食べていく。

「このライチ美味ーい!」

「………」

あれ?俺の予想ならここでサンジが「人に持たせて食ってんな!」とかさ「俺は野郎に食わせる趣味はねぇ!」とか野次の一つ二つ位来ると思って期待したんですが黙ってしまわれた…なんで?

びっくりした様子だったしインパクトは悪くないと思ったのにな。まさか俺のボケに突っ込み通り越してキレたとか?蹴られるのはご勘弁頂きたいとライチから口を離すと不意に伸びてきたサンジの人差し指が俺の口端に付いてた果汁を拭う。
「え?あ、悪い」と言うけれどなんだこの異様な雰囲気…俺の想像してたのと違う。

想定外の空気に耐えられず顔を逸らすと傍に立つ店員のニコニコとした顔と目が合った。

「どうだい味は!」

今までのやり取りを一部始終見ていたはずの店員の男はそんな俺らの微妙な空気なんて気づきもしてない様で豪快に笑う。

ずっと黙っていたサンジが急にハッとした表情に変わると空いた片手で俺の頭をグワシッと掴み髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。やめてー!

「人の手を使って何食ってんだてめぇは!食べんならもっと綺麗に食べろ!おれの手がベタベタになってんだよ!」

いつも通りの調子にほっとする。そうそうこれを俺は予想してたんだ、ごめんごめんと笑いながら謝る俺にサンジは呆れた溜め息一つで許してくれる。

やっと視線をサンジに戻すと俺の残したライチをあさっりと食べていた。
食べ物を粗末にする訳にはいかないし仕方ないとは言えそれ俺の食べかけなんですけど!と突っ込むつもりで口を開きかけたがサンジは指先に付いた果汁を拭う事無くそのままぺろりと舐めては「美味いな」と店の男に声をかける。

「気に入ったなら買ってってくれよ!安くしとくぜ!」

「そうだな……おい、どうかしたかナナシ?」

「いや、別に…なんでもない」

あれ?なんで俺は一人で気恥ずかしくなってんだ?
一つの食物を友達とか一緒になって食べたりするのはおかしくない、普通なはず。友達(女子)と一緒のパフェ食べたって別に平気だったのに…

いやサンジが平然と指先を…やめろ思い出すな俺。
見なかった事にすればいい、うんそうだ、そうしよう。

それにしても漫画で読んでた時のサンジのイメージは男に対してもっとドライで厳しいと思ってたけど案外世話焼きな男らしい。

でも俺がちょっと目を離してる間に隣に居たはずのサンジがいなくなって、どこ行ったと当たりを見渡すと花売りの女性に片膝ついてハート飛ばしてたり、底抜けの女好きなのは漫画の通りで安心するな。

戻ってきたサンジにホントに女の子大好きだなと言えば俺はレディを愛する為に何たらかんたらと豪語してはそのままレディの素晴らしさについて勝手に語り始めた。

長くなりそうな雰囲気を感じて俺は笑って適当に相槌を返しつつどんどん先に歩いて行く。面倒そうな事は逃げるのが一番だ。

だからその時サンジが俺をじっと見つめていた事に欠片も気づかなかった。




曖昧なカルム
(それはゆるやかに)


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