2週間はあっという間だった。
普段通りの生活をして、気付けばお見合いの日の朝を迎えた。いつもよりスキンケアは丁寧にしていたので、化粧のりは最高。加えて昨日は美容院にも行った。どこからでもかかってこい、外科医。
「…よし」
この前美香に見繕ってもらったAラインのシャツワンピースと、いつもより低めのパンプス。それに合わせたピアスやバッグなどをまとめた袋は、玄関に昨夜のうちに置いている。全然持っていない形の服なので、色は着慣れたターコイズブルーにした。本当はピンクベージュなど優しい色合いがいいのだろうけど、試着した時に美香がターコイズが1番美人と言っていたので即決した。似合っているの言葉よりもノリノリで買った。
アパレルの仕事をやってはいるが、普段からとてもおしゃれにしているかと言われればそんなことはない。少し個性的なデザインや高いヒールの靴が好きというくらいで、毎日服にこだわっている訳でもない。故にSNSでコーデ載せてる人は、一体どんな生活をしているのか心底不思議に思っている。頻繁に買い足してはフリマアプリなどで売っているのだろうか…ある意味闇を感じる。
「お先に失礼しまーす」
「お疲れ!名前ちゃん、今日いつもより雰囲気違う気がする。デートでもあるの?」
「いや〜そうだったらいいんですけどね!アイシャドウの色変えたので、それかもしれないです」
仕事が終わり帰ろうと挨拶をしたら、先輩から指摘された。さすが、目敏い。実はアイシャドウではなくナチュラルより気持ち薄い色のカラコンをつけている。お見合いのためのワンピースに合わせて変えてみた。
「そうなの?美人さんなのに浮いた話聞かないから気になっちゃって。いつかそういう人ができたら是非教えてね!」
あまり人に深く突っ込んでこない上に気遣いのできるこの先輩が、私はかなり好きだったりする。
「はい、もちろんです!お疲れ様です!」
にこにこと笑っている先輩に軽く頭を下げて、私は近くにある有料のパウダールームへと向かう。
そこはワンコインで着替えやメイク、ヘアセットからシャワーまで浴びることができるのでアフター5などにはかなり混雑している。
今日は混む時間よりも早めだからかスムーズに案内された。
トラファルガーさんより指定されたレストランには19時半に着けばいい、と弘樹さんから言われてるのでゆっくり準備しよう。
今となってはなんだかんだでわくわくしてたり。いつも同伴でおっさんばかりとのご飯だったし。歳が近くてイケメンだなんて割と最高なのでは。
私はいっそのことシャワーも浴びようと、着替え一式を持ってシャワールームへと向かった。
身支度を全て終え、暇になったので美香にラインを送る。彼女ももう仕事が終わる頃だ。
『美香ー』
送って数秒で既読がつく。
え、暇なの?
『名前!いよいよだね!なんか私がドキドキしてきたんだけど!』
『なんでよ(笑)仕事終わったの?』
『もう終わるとこ。だからラインくるのめちゃくちゃ待機してた!え、もう着替えた?写真送って欲しい〜!』
そういえば全身の完成したコーデはまだ見せてなかったかも。
大きい鏡の前に移動して、顔は隠してコーデが映るよう写真を撮った。私の隣では違う女の子が同じように写真を撮っている。みんなこれからそれぞれにおしゃれして出掛けるんだなと思ったら、私もドキドキしてきた。
『はい、これ』
『えーーーー!めちゃくちゃかわいい!好き!!やだこれ悠人にも送っていい?!』
スマホを手にはしゃいでいる幼なじみが目に浮かぶ内容で笑う。
『いいけど恥ずかしいな』
『全然!もう、何を恥ずかしがるの?!悠人に送ったから!』
『仕事が早くて優秀ですね。さすが立木チーフ』
『お仕事終わったからチーフ呼びやめて〜!』
くすくすと笑いを堪えきれずにラインをしている私は、側から見たらヤバイ人に見られてそうだ。幸いにも両隣の席は空いている。
そのまましばらく時間潰しに美香に付き合ってもらい、ふと時間を見れば、移動しなければならない頃合いになってきた。
『もうそろそろ行こうかな』
『え!わー!が、頑張って…!』
『頼んできた本人が戸惑わないでよ(笑)』
応援するスタンプと共に送られてきた言葉で力が抜けて、緊張も何もなくなってしまった。
『写真、見た。似合ってるから調子乗っていいぞ』
急にポンッと上に悠人からのラインが届く。
『男性目線でそう言われると自信ついた。悠人が男性ならの話だけど』
『オイ、さっきの言葉削除していいか』
『うそうそ。ありがと』
さて、戦場に向かいますか。
by 溺れる覚悟
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