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「……ユーリは、今なにをしている」
「さァてね、今のことは……っと、怒んな怒んな。へーかなら、現在はフツーに城でお仕事やってら。王がなすべき仕事をな。そろそろリヴァース学園にどっかの隊を送る算段でも立ててんじゃねーか?」
「魔導師学園に? なんでそんなこと……」
「だから、俺にゃあ分かんねっつの。大方、八か九の奴らに探らせたんだろ。それか、俺らですら知らねェ人材を使ったか、だな」
王都騎士団八番隊リーヴラ、九番隊スコーピオウは、騎士団の中に存在する部隊でありながら、情報収集と暗躍の業(わざ)に長けている。当然騎士としての腕も備わっているが、騎士団という傘をかぶって目を晦ませているのも事実だ。
彼らは戦になると四方散り散りになって情報を集め、時には敵方をありもしない噂で混乱させることもある。
そういったことを専門に行っているのが、リーヴラとスコーピオウだ。
正直、この二つの隊を持て余しているような気が、エルクディアにはあった。騎士団にありながら、騎士道から外れたことさえしてのける彼らを、どう扱えばいいのかよく分かっていない。普段の鍛錬や、警備の指示などは他の隊と変わらない。
しかし、彼らの本来の力を発揮させる仕事の指示は、まだ片手で数えるほどしかない。
そんな二つの隊を、直接ユーリやオーギュストが影で動かしていることは気がついていた。
気がついていたけれど、気づかないふりをしていた。なんのためにと訊いたところで彼らが答えるはずもない。――聞いて、ならお前が動かせと言われるのが、嫌だったのかもしれない。
あまりにもくだらない矜持だと、エルクディアは己を恥じた。
「いいか? リヴァース学園になんかあったのは間違いねェ。ま、あの魔導師らがいきなりやって来たのも裏があっからだろ。その辺は分かりきったこった。だがそれを、へーかがどうこうしようってんなら話は大きくなる。魔導師と聖職者がいがみ合ってんのは今に始まったことじゃねーが、まァなんつーか……アレだ」
「……国王が動くのが問題なんだろ」
「そうそう、それだそれ。どうしたってこの国の特性上、そうなっちまうんだよなァ。聖職者と争う、すなわち国と争うに直結だ。誰が決めたか知んねェが、メンドーなこって」
聖職者の最高位が国の最高位と同じであることは、『聖職者』の存在そのものに価値を与える。聖職者であるだけで、生まれながらに崇められる。
いわば特権階級なのだ。貴族ではなくても重宝がられ、様々な優遇を受けることができる。聖職者と王が結びつくことによって、自分にはない権威を傘に着て傍若無人に振舞う聖職者がいることも、否定のしようがない事実だ。
国王の定め方に疑問を抱く者も、表立っては少ないが存在していることは確かだ。
「言っとくが、周りが思ってるよりこの国は脆いぞ」言いながら、フェリクスが足元の小石を蹴飛ばした。
「まあ、そうなっちまったら内乱だ。聖職者と魔導師の戦いになる。勝手にやってくれりゃあいいが、国王が動くなら俺達が出ないわけにゃあいかねェ。お前とオーグのじーさんが全力で止めたって、まあせーぜー十隊だな。左右軍(一般兵ら)はじーさんと白黒両将軍の言うことにゃ絶対だが、八と九の奴らは十中八九、へーかにつく。十三は様子見だろーな」
「全十三隊を指揮するのは俺だ。それに、軍事総帥の命を反故にするなんて真似できるはずがない!」
「だァから、お前はすーぐ忘れるなァ。俺達が忠誠を誓ったのは誰だ? なにを前に剣をかざした? 俺達ァこの国のモンだ。お前のモンじゃねェんだよ」
軍服の胸に刻まれた国章は、王都騎士団の人間が国に忠誠を誓ったことを示している。
国のために動く。――そんなこと、言われずとも分かっていたはずだった。