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 受験はもう目の前だ。誰も彼もがぴりぴりしている。そろそろAO入試や推薦入試で合格を決めた者達が出始め、センター入試を控える生徒との温度差が生まれてきている。休み時間も参考書と向き合う者が少なくなく、受験科目に関係のない授業はあってないようなものだった。
 穂香も例に漏れず、休み時間の僅かな間を惜しんで英単語を叩きこむ。覚えられていない単語を見るたびに胸がざわつき、焦燥感ばかりが募って泣きたくなった。どうしよう。集中できない。どうしようと一度思ってしまえば、どんどんと不安と焦りが脳内を占拠してなにも考えられなくなる。嫌な未来ばかり考えてしまい、じわりと涙が浮かんでくる。
 どうしよう。
 つい先日、ナガト達から聞かされた話を思い出し、さらに涙が滲んだ。命が危ないかもしれないから気をつけて。そんなことを言われる日が来るだなんて、想像したこともなかったのに。
 すべては自分のせいだ。珍しがってホワイトストロベリーの鉢植えなんて買わなければよかった。部屋で育てなければよかった。そうすれば、白の植物の被害はすべてテレビの向こう側の話だったのに。

「……ほのちゃん?」
「あ……、郁ちゃん、どうしたの?」
「どうしたの、はこっちの台詞。ぼーっとしてどうしたん? ……なんかあった?」

 自殺した佐原と父のことに関しては、騒ぎはいつの間にか終息していた。本格的な受験シーズンに突入した今、他人のことに関わっていられないのだろう。それでも相変わらず郁は穂香を気にかけてくれる。たまに息抜きと称して食事に誘われたりもする。その優しさがどこか痛い。
 制服のスカートからすらりと伸びた足は同性の穂香から見ても綺麗だ。紺のハイソックスがよく似合っている。満員電車で痴漢に遭い、彼女は相手の足を思い切り踏みつけてやったと愚痴っていたことを思い出した。――そうだよ。郁ちゃんだったら。
 郁だったら、こんな状態に陥っても乗り越えられたのだろう。訳の分からない白の植物と異世界人と直面しても、柔軟にそれを受け止めて対処できたのだろう。姉のように。
 だが、穂香には無理だ。そんな柔軟性も、立ち向かうだけの強さも持ち合わせてはいない。ありえないと突っぱねるくせに、ありえないはずの恐怖が差し迫ると怯えてしまう。どっちつかずの曖昧な立ち位置で蹲ることしかできない。


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