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「ゆう〜、別にさぁ、あたしらの前でやんなくてもよかったんじゃないのー? これじゃ、あんたも片倉さんも可哀想っていうかさぁ」

「……いだろ」

「え?」

 穂村の言うことももっともだ。俺と茉莉花の問題なのだから、わざわざ見世物形式でこんなことする必要なかったのかもしれない。
 でも。

「どういう事情があったっていうのをみんなに知らせとかないと、茉莉花が悠さんのところに行けないって思ったんでしょ?」

 俺がもたれている扉をあっさり開けて口を挟んできたのは、茉莉花の親友である岡崎美咲だ。俺よりもずっと茉莉花と一緒にいた分、あの子の性格はとっくに把握している。

「茉莉花ってね、とんっでもなく臆病でさー。このまま小鳥遊くんと付き合うにしても、悠さんを選ぶにしても、あたしは周りからどう思われるんだろうーって、そんなことばっか考えちゃうの。でもさー、もうどうしたいかなんて、あの子の中じゃ決まってんのにねぇ。あれずるいから、誰かに背中押されるまで待ってんだよ」

「それじゃ、ゆうのこと利用したみたいじゃんっ! しかもさっきのじゃ、ゆうが悪者みたいだし!」

「それでいいって思ったのは小鳥遊でしょ。この状況作って茉莉花呼び出してって頼んだの、コイツだもん。ここまでやっといたら、なにしようがあとは一緒。だったら開き直るしかないじゃんか。開き直れるって時点で、あの子も相当図太いと思うけどね」

 くすくすと笑う声に嫌味はない。
 ここまで来たら、あとはもう茉莉花がなにをどう振る舞ったって一緒だ。悠さんのところへ行くのも、俺とこのまま付き合うのも、どっちにしたって噂が立つ。どうしたって同じなんだから、本当に、したいようにすればいい。
 フラれて逆上して元カノを責め立てた男なんかより、優しい大人の男になびくのは当然のことだ。それがもともと好きな相手だったら、なおさら。
 だから知っておいてほしかった。そして、できることなら分かってほしかった。

「……ムカつくけど、でも、誰も悪くない」

 少しややこしくなっただけで。少しすれ違っていただけで。
 だってあの子は言ったじゃないか。
 俺のこと、好きだった――って。

 人目を気にするあの子が人前であんな風に責められて、本音を無理やり吐露させられれば、どうにかなるかなって思った。最後まで崩せなかったガードを一枚残らず剥いでしまえば、なにかが見える気がした。
 それは結局、自分にとってなんのメリットももたらしてはくれなかったけれど。

「ひとし、ラーメン食いたい」

「おー、失恋祝いに奢ってやんよー。岡崎と穂村も来るか?」

「え、マジ? 行く行く!」

「私も行っていいの? やった、行く!」

 教室に残ってもらっていた、信頼できる友人達がはしゃぎながら俺を囲んでラーメンで盛り上がる。実を言うと、一人じゃ怖かったんだ。あの人が好きだと告げられて、俺から離れていく姿を一人で見るのは、怖かった。だからこうして、誰かにいてもらうことにしたんだ。
 俺だってずるいんだよ、茉莉花。


 君を傷つけるために選んだ言葉は、嘘だけじゃなかったんだ。




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