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 ぐらぐらと世界が揺れる。座っているのもやっとだ。俯いてしまえば、きっと泣く。それだけは嫌だ。

「お姉ちゃんには、分かんない、よ……っ!」

 言うだけなら簡単だ。だって姉はあたしじゃない。あたしの気持ちなんか分かるはずない。そう言うと、彼女はあっさり頷いた。

「分かるわけないわよ。アタシには理解できない。アンタも、ハルカも、これっぽっちも理解できないわ。あれだけ分かりやすい愛情向けられてて気づかないアンタも、さっさと告白しとかなかったハルカも。……でも、今、アンタ達がつらいことくらいは分かんのよ!」

 怒鳴られた。
 周りの客も店員も目を丸くさせている。好奇の視線が突き刺さる。――けれど。その理不尽な怒りに、あたしの中でなにかが切れた。

「いつもいつも分かったようなフリして、そういうのムカつくの! ほっといてよ! お姉ちゃんには分かりっこないの! いっつもお姉ちゃんと比べられて、残念ね、なんて言われてきた気持ちが分かるわけない!!」

「だぁからっ! 分かるわけないって言ってんでしょ!? 他人がアタシ達をどう比べようと知ったこっちゃないわよ! そんな話どーでもいいのよ! アタシと比べて、自分の方が劣ってるって思い込んでるのは誰!? 誰なのよ! 言ってみなさいよ! ハルカは最初から手が届かないって思ったのは、なんでなの!?」

「そんなの誰だって思うに決まってるでしょ!? あんなかっこいい人、あたしなんか好きになってくれるはずないもの! もとはと言えばお姉ちゃんが連れて来たんでしょ!? だったら、お姉ちゃんと付き合ってるって思うじゃない!」

「それも違うって最初に言った! アンタの頭は空っぽ!? だいたいね、昔から気に食わないのよ! なんでもかんでもアタシの方が優れてるから自分ができないのは仕方ないっていうその態度! なんなの!? アンタができないこと、なんでアタシのせいにされてるわけ!?」

「だって――!」

「だってもでももない! 結局、アタシと比較して勝手に線引いて落ち込んでるのはアンタでしょ!? アタシを理由に諦めんな!!」

 お互いに肩で息をし合う言い争いは、他人から見ても鬼気迫るものがあったらしい。いつの間にか立ち上がっていた腰を二人して落ち着け、恐る恐る注ぎ足された水を一気に煽る。
 コップを持つ手が震えた。ゆるり。涙腺がほどける。ぼたぼたと情けなく零れていく涙を拭うこともできず、あたしはただ自分の膝を睨むことしかできなかった。
 ――なによ。なんなのよ。だから嫌いなの。だからイヤなの。いつだって正しいのはそっちの方だ。

「……とにかく。どうすんの、これから。ハルカも小鳥遊くんも、アンタの答えを待ってる。なかったことにはできないわよ」

「どう、して……」

「どうしてあたしなんかを好きになったんだろーとかほざいたらぶっ飛ばすわよ」

 だって、理解できない。どうしてあたしなの。あたしのどこを好きになったの。呆れたように姉は言った。「それはいつか直接聞いてやれば?」聞けるわけがないのに。

「……どうしたら、いい?」

「自分で決めな。……アンタのことよ。どうせ、どの道選んでもきっと後悔する。だったら自分で決めなさい。アタシに決めさせないで。アタシを逃げ道になんてさせてやらない。アタシが決めたからこうなったなんて、思わせてやらない。――後悔としあわせがワンセットになることだって、世の中ざらよ」

「後悔と、しあわせが……?」

「そーよ。アタシだってそうだもの。あのねぇ、アンタまだ子供なの。しあわせに貪欲になったっていーじゃない。恋に全力投球したっていーじゃない。アンタの人生に責任なんて取れないけど、でもね、これだけは言えるわ」

 残っていたあたしのチーズケーキをあっさり奪っていった姉は、とびきりの笑顔で言った。

「アンタがどんな女になったって、アタシとアンタはキョーダイよ」



ねえ、どうしよう?
(さあ、道標は示された)
(――あとはその心のままに)


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