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「――茉莉花、それ、銀紙」

「え、あ……」

 ケーキと一緒に口に入れかけていたアルミホイルを皿に戻し、すっかり味の分からなくなってしまったコーヒーに口をつけた。姉がなにか覚悟するかのように大きく息を吐いて、まっすぐに見つめてくる。――痛い。この目は苦手だ。逃げるように逸らした視線を咎めるように、彼女は手を握ってきた。

「ねえ、茉莉花。アンタ、どうしたい?」

「…………」

 答えられなかった。答えられるはずがなかった。

「……アタシね、けっこーひどいことやったと思うのよね、自分でも。無責任なこと言ったし、やったわ。でも、後悔したって取り消せないの。アタシがどうこうできる問題じゃないの。だから聞かせて。アンタの考えを。アンタがどうしたいのか、言って。そしたら、アタシにできるだけのことはしてあげる」

「……なに、それ。別に、あたしはなにも……」

「告られたんでしょう、ハルカから」

「――っ!」

 ガチャン、とカップが騒いだ。

「知ってるわ。全部知ってる。だってアタシがアンタの居場所教えたんだもの。ハルカの気持ちも、アンタの気持ちもずっと知ってた。……早くくっつけばいいのにってずーっと思ってたわ」

 なにそれ。なんなの。
 怒りが込み上げてくる。だって、そんなの一言も――。まるで弄ばれたみたいだ。じわりと滲んできた涙を誤魔化すようにきつく睨んだ。それでも姉は怯まない。彼女がこれくらいで怯むはずなどない。

「アタシ何度も言ったわよ。ハルカと付き合ってなんかないって。……ああ、これじゃあアタシの言い訳にしかならないわね。……ちょっと待って、アタシも混乱してる」

 一気にコーヒーを飲み干した姉は、困ったように笑った。

「最後にもう一つ、ワガママ言わせてちょうだい。茉莉花。世間体とか、倫理とか、常識とか。そんなもの全部取っ払って、アンタの中に残るモノはなに? お願いよ。同じように後悔するなら、自分に嘘つかないで」

「そん、な、のっ……!」

 全部分かってるくせに。全部知ってたくせに。
 あたしの気持ちも、悠さんの気持ちも、全部知ってたくせに面白がって。あたしが小鳥遊くんと付き合うことになったときだって、なにも言ってくれなかった。それなのに、どうして悠さんにあんなアドバイスしたの。なんでそんな余計なこと言ったの。だって、どう考えたって、あの人はお姉ちゃんの隣にいるのが自然だった。あたしなんかの隣にいるのは、似合わない。


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