└井宿side short
(18/22)
──このモヤモヤの正体は知っている。
井宿は感情を少しだが表に出してしまったことに、後悔していた。
華だって、好き好んで心宿に捕えられたわけではないのはわかっているし、こんな感情を抱くのも間違っている。
だけど、どうしても怒りがおさまらなかった。
華が言うには口を塞がれたと言っていたが、おそらくそれは手ではない。
自分の想像が正しければされたのだろう。
あの時、気を与えた時に気づいた華のとは違う気。
あれは心宿の物だったのだ。
部屋から出て、自然と動かす足に力が入っていたらしく、自分らしからぬ足跡に呆れそうになった。
あんな事で感情を乱されるなんて、修行が足りない。
でも、あんな事では済まないほどに華なことを……。
そこまで考えて、首を振った。
いつの間にか自室の前についていて、中に入ると、乱暴に寝台に腰掛けた。
──イライラした。
自分を顧みずに力を使う華に。
華に気を与えたであろう心宿に。
もっと自分を大事にして欲しい。
(オイラが言えた義理ではない、か)
過去に自分がした事を思い出し、ふと自虐気味に笑った。
それでも、華に傷ついて欲しくない、笑っていて欲しい。
話を聞く限り、未来に起こる事がわかると言うのだから、この先の事で何か後悔することがあったのだろう。
だからといって、その命を持ってして助けられても自分は嬉しくない、そう思った。
これをどう伝えたら、華に伝わるのだろう。
どれだけ、華の事を大事に思っているのか、伝えられたら……。
ぽふっと音を立てて、寝台へと身体を横たえた。
イライラはもう消えていた。
心に思うのは、華。
これが恋だと、愛だと気づいているけれども。
「華……」
呟きは虚空へと消えていく。
きっと訪れる最後の時まで。
華の事は守ろう。
そう誓って目を閉じた。
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