鏡花水月 | ナノ

11 麒麟の使いU

(12/22)


遥か昔。
紅南国と倶東国、そして西廊国と北甲国の真ん中に小さな国があった。
四つのどこの国にも属さないそれは黄王國と呼ばれ、少人数の王族とその家臣だけが暮らしていた。
国と国との交流を全て絶ち、国の中だけの資源と麒麟の力を少し借りて生活していた彼らは決して豪華ではないが、衣食住に困らない暮らしをしていたと言う。
彼らはそれで幸せだった。
だが、それも長くは続かなかった。

倶東国から始めた戦争のせいで小さな国の領土は奪われて、王族は皆殺しの目にあったと言う。
しかし、この国で唯一信仰されていた麒麟という神が、黄王國の人間すべての国の記憶を封じこめ、残った王族と家臣を救うため、散り散りに世界異世界問わずに飛ばした。
そうして、黄王國の歴史は幕を閉じたのだった。
後に残るは占領され荒らされた荒野のみ。

その土地は現在倶東国によって支配されているという。




昔話が終わった後、太一君は華の顔を見て言った。
「お主はその国の人間の血を引く生き残りじゃ。しかも王族のな」
「まさか、そんな……私は一般家庭育ちなのに……?」
「麒麟はその国の記憶を封じて飛ばしたのじゃ。王族の血を引いていることさえお主の両親も忘れておるじゃろう。しかし、一個だけ忘れていないことがあるはずじゃ」
「……忘れていないこと……?」
「お主の家では、何か他とは違う神を信仰しておったのではないか?」
その言葉に、華はハッとしたように目を見開いた。
覚えがあった。
昔から他の家と違う神様を信仰していたことを思い出したのだ。
「じゃあ、私は……」
「お主は麒麟の使いじゃ。玄武・白虎・朱雀・青龍全てを呼び出すのに重要な役割を持っておる。その目の輝きがその証拠じゃ」
「目……?」
自分の目を触る華。
井宿が持っていた鏡を華に向けた。
そこには、黄金色に輝く瞳をぱちぱちと瞬きさせている、華が写っていた。
「え!? 目、目の色が……!?」
「麒麟の力がお主に備わった証じゃ。その力は願えば対価と引き換えにお主の願いを叶えてくれるじゃろう」
「願えば、なんでも……?」
「忘れるでない。その力は、対価が必要であると言うことを」

使い所を間違えてはならない。
遠回しに太一君からそう言われた気がした華は、ぎゅっと自分の手を握りしめた。

「井宿よ、少し席を外せ」
「はいなのですだ」
静かに隣に座って話を聞いていた井宿が腰をあげ、扉の外へと出ていく。
井宿が完全に外に出たのを見計らい、太一君は口を開いた。
「お主、何度か繰り返しておるな?」
「え……」
「今回でそれも終わりじゃ。麒麟はお主を試したかったようじゃな。繰り返した過去は可能性のある未来を映したものじゃ。決して忘れてはならぬぞ、よいな?」
華の脳裏に、これまでの過去が甦る。
倒れる仲間、失われてゆく命、床一面に広がる血、血、血。
青ざめた華をみて太一君はその額に指を当てた。
ふわりと風が舞い、華を包み込む。
それが全て額へと吸い込まれるようにして集まり、黄金色に光ると、華の中へと入っていった。
「お主にストッパーを設けた。大きすぎる願いは命を奪いかねん。よいか、忘れるでないぞ対価を」
太一君は言い終わると、話は終いとばかりに部屋を出ていった。
一人部屋に残された華は、ぽふりとベッドに身体を投げ出す。

(あの過去は、もしかしたら起こる未来。私はそれを知っている。私だけが知っている。ならば、最悪の事態は私が気をつければ避けられるということ……)
今までと同じではダメだ。
守られて、何もできない自分は嫌だ。
美朱にはこれから辛い試練が待ち受けている。
それを支えて、彼女には幸せになってもらいたい。
繰り返した過去分、美朱へのその気持ちは強くなる。
もう何年もここにいる。
だから、帰ることは諦めた。
待っている人もいない。
やれることは一つだけ。


華は、ぱんっと勢いよく自分の頬を両手で叩くと、ベッドから起き上がった。



部屋を出ると、すぐそばの壁に井宿がもたれかかっていた。
「井宿、戻ろう」
「もう具合はいいのだ?」
「うん、もうすっかり。それに、自分のことを少しでも知れてよかった。私がここに来た意味が知れて……よかった」
ぽんぽんと井宿の大きな手が華の頭を優しく撫でた。
「華は一人じゃない。オイラ達がついているのだ!」
「うん、そうだね」
にっこりと微笑むと、井宿もにっこりと微笑み返した。
いつもの笑っている仮面越しのままだけども。
「それじゃあ、美朱ちゃん達のところにもどるのだ!」
井宿が笠をぱっと放り投げた。
紅い光が二人を包む。
笠に吸い込まれるようにして二人の姿がそこから消え、次に華が目を開けた時には、びっくりした顔をしてこっちを見ている、柳宿と翼宿、美朱そして軫宿の姿があった。
「ただいまなのだー」




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