▼65:写真とベッリーナ

時は少し前に遡る。
ローマに向かうギアッチョにソルベとジェラートが解析した写真を渡したリゾットはひとりそのままローマに残っていた。
ソルベとジェラートもギアッチョに続くようにムーロロを追うために出たのだろう。今までいたビルの一室はもぬけの殻で、二人が手にかけた三人の死体のみが転がっている。リゾットはそれらを跨いでパソコンの椅子に座ると、持っていた写真三枚を取り出し眺めた。
赤ん坊の頃のトリッシュの写真、母親とトリッシュが笑顔で並んでいる写真、若い頃の母親の写真。
その写真らはイスキア島にあるトリッシュの生家から持ち出されたものだ。
アデレードたちがカプリ島へ渡るのと同じ頃、リゾットたちはイスキア島へ渡っていた。
ムーロロから情報を流されたソルベとジェラートはリゾットに聞いた話の全てを伝え、メンバーはボスに娘がいる事を知った。ムーロロの狙いは二人に情報を流しリゾットたちを裏切らせボスと対峙させる事だ。勝った方につくつもりだという事はソルベとジェラートにはすぐに解った。彼らもまた損得で動くところがあり、ムーロロから同じ臭いを感じ取っていた。
だが二人がムーロロと決定的に違うのは、目先の利益にすぐ飛びつかない点だ。加えて二人にはムーロロの知らない願いがあった。アデレードを暗殺者(ヒットマン)チームへ戻す事。それが二人の間で最も優先される事であった。
こうしてムーロロはソルベとジェラートに追われる身となり、またムーロロもボスの娘を護衛するブチャラティチームを追うしかなくなったのだった。
さて、イスキア島へ渡ったリゾットたちだったが、想像していたとおり家の中は既に荒らされていた。
本は散らばり、戸棚のものは床に落ちていた。この家を荒らした人物がボスに関係している事は明らかだ。
アデレードとプロシュートは親衛隊の仕業だと思っているが、リゾットはそれがもしかしたらペリーコロかもしれないと思っていた。家探しをしているところにトリッシュと出くわし、拉致の恐れがあるから保護するために来たと言って彼女を連れ出したのかもしれない。そのまま素知らぬフリをしてポルポに預け、ボスのところまで送り届けさせれば良い。この仮説が正しければこの家の写真は既にボスの手に渡っている。
しかしポルポは自殺で死に、そこに思わぬ誤算が生じた。ペリーコロはポルポの後を継ぐブチャラティに娘を預けねばならなくなった。
そう思ってリゾットは写真を持ち帰ったのだった。
早く手がかりを見つけなければ、と写真を注意深く観察していると、メールが2通届いた。
ひとつはソルベとジェラートからのメールで、ヴェネツィアのリベルタ橋内にてムーロロの身柄を確保。そのまま暫くヴェネツィアに潜るとの内容だった。
そしてもうひとつはギアッチョからだ。彼も無事にアデレードたちと合流したようだ。
サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会にいる、との内容に目を通す。トリッシュの影にアデレードが入っている事を推察すれば、ボスとの接触も間近なのだろう。
自分以外のメンバー全員がヴェネツィアにいる事になったが、夜明けにはボスの目的がはっきりする。
これ以上自分たちのチームを冷遇させる訳にはいかない。これまでの不当な扱い加えて今回の娘拉致の濡れ衣まで着せられようとされてはチームのリーダーとして放ってはおけなかった。
これは賭けだ。
アデレードがブチャラティのチームへ行った矢先にボスの娘の存在が明らかになった。アデレードを取っ掛かりにブチャラティチームと手をも組めた。この賭けに上手く乗れれば、暗殺者(ヒットマン)チームは組織内で一気に駆け登れる。
リゾット自身にそこまで上昇志向がある訳ではないが、それ程までに暗殺者(ヒットマン)チームの労働環境は劣悪だった。それに彼もまたアデレードにはチームに戻ってきてほしいと願う者の一人であり、その為には少しでも憂いを減らしておきたい。
リゾットは再び写真に目を移した。
ふと、若い頃の母親がどこかのモニュメントに腕を置いてある写真に映る文字に気付く。
モニュメントにCosta Smeraldaと掘られている。撮られた日付を見れば、娘・トリッシュを生む少し前である事が解る。

「コスタ・ズメラルダ……。サルディニアか」

地図を取り出して、サルディニア島にあるコスタ・ズメラルダの場所を確認する。
ここへ行けば何か手がかりが見つかるかもしれない、とリゾットは思った。
そこに電話が鳴る。プロシュートからだ。

「Pronto?娘は無事に引き渡したのか」

『No.やはりボスは娘を殺すつもりで護衛させてた』

「……それで?娘とブチャラティは?」

『娘は無事だ。ブチャラティたちはボスを裏切って、ヴェネツィアを脱出する』

「アデレードもか?」

『……Sì.俺たちが協力したのもバレたぜ』

「別に構わん。遅かれ早かれと言ったところだろう」

『まぁな。そっちは?』

「ひとつ気になる事があってな、サルディニアに行ってくる」

『サルディニア?』

「娘の母親が若い頃そこで写真を撮っている」

『……それだけか?』

「娘が生まれる少し前だ。写真は母親ひとりで写っている。リゾート地で?シャッターを押した人物がいるはずだ」

『お前の勘は当たるからな。Va bene(解った).俺たちはローマへ戻れば良いんだろ?』

「Sì.Tutte le strade conducono a Roma(すべての道はローマに通ず).」





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