▼04:ナランチャとベッリーナ

みかじめ料を徴収しランチを済ませたミスタとアバッキオがアジトへ戻ると、ソファに座ったままクッションを支えに寝ているアデレードと彼女の腰に腕を巻き付けて寝ているナランチャがいた。

「おいおいおい、どういう状況だァ?」

「知るか。どうせまたナランチャがアデレードにじゃれついてただけだろ」

「だけってことはねぇだろうがよォ〜〜〜ッ!アデレードの太ももに頭置いて寝てんだぞ!?ありゃあ膝枕じゃあねぇかッ!?羨ましいぜ、チキショー!!」

「本音はそっちじゃあねぇか」

ミスタとアバッキオの声にアデレードが身動ぎして目を醒ます。

「なぁに、煩いわねぇ……。ナランチャ、重いわ」

アデレードは自分の身体に乗っているナランチャの頭を撫でて起こした。

「う〜ん……マシュマロなら、あと100個は食える、ぜ……」

「どんな夢見てんだコイツ……起きろ、ナランチャ!」

「ナランチャーッ!!いつまでもアデレードに乗っかってんじゃあねぇッ!!」

ミスタが力ずくでナランチャの服を掴んで、アデレードの上から退かす。
そのまま床に投げられたナランチャは転がされた衝撃でぶつけた後頭部を擦りながらミスタを睨んだ。

「痛ェェェェッ!!何すんだよ、ミスタ!!」

「お前こそアデレードに膝枕してもらうなんて何してんだよコラァ!!」

「別に私からした訳じゃあないわ。ナランチャが髪の毛とか弄ってたのは気付いてたけど」

「アデレードの髪の毛って綺麗だから触りたくなるんだよなー」

「だからって勝手に触ってんじゃあねぇ」

「アデレードも好きにさせるな」

「綺麗なものに触れたい気持ちは解るわ」

長い銀髪を手櫛で整えながら、アデレードはアバッキオの小言を受け流す。いつもの事とは言え、奔放な従姉に対してアバッキオは溜め息を漏らした。

「でも寝ている女性に黙って触れるのは駄目よ、ナランチャ」

「……ごめん。アデレード、重かったよな……」

「昔飼ってた犬が乗っかってくる夢を見たわ」

クスクスと笑うアデレードにナランチャがえー犬かよーと不満そうに呟く。
ソファから立ち上がったアデレードはキッチンへ行き、お茶を淹れようと茶葉の缶を開けた。

「あら、無いわ」

「んー?お茶かぁ?じゃあ買いに行こうぜ!」

アデレードの後をついてきたのかナランチャが横からアデレードの手元の缶を覗き込む。

「ナランチャが買ってきてくれるの?」

「ちっげぇーよ!俺とアデレードで買い物行こうぜって言ってんのー」

「えぇー……仕方ないわねぇ」

うたた寝後の気怠さもあって外出は気乗りしないアデレードだったが、ナランチャの期待に満ちた眼差しが散歩に行きたいと訴える犬と重なった。アデレードが眉を下げて頷くとナランチャの表情がぱっと明るくなる。

「やった!」

「あ?出掛けんのか?」

「茶葉切らしてるから外でお茶してくるわ」

「狡ィ!俺も行く!」

「ミスタはブチャラティに報告しなきゃでしょ。彼、そろそろ帰ってくるわよ」

「じゃあよー今度は俺とも付き合ってくれよォ」

「アデレードー!早く行こうぜー!!」

「はいはい。……それじゃあね」

もう玄関で待っているナランチャに返事をしたアデレードはミスタとアバッキオに投げキッスをして出ていった。

「……」

「……」

二人が同時に顔を覆って深い溜め息をついたことをアデレードは知らない。




マーケット近くのバールに入った二人はアデレードの意向でカウンターではなくテーブルに席を取った。
ナランチャはゆっくりとした仕草で紅茶を飲むアデレードを見つめる。
カップについたリップを拭う指先も、薄く赤が滲んだ口唇も、色素の薄い長い睫毛もナランチャの心を捕らえて止まない。
ナランチャはあの日チームにやって来たアデレードに一目惚れしていた。

「アデレードは綺麗だなぁ」

「あら、Grazie.」

含羞のない声は微かな不遜さを帯びているが、またそれすらもアデレードを魅力的にさせる。

「ナランチャも可愛いわ」

「可愛いって……またそうやって犬扱いすんなよ」

ナランチャがアデレードの手に手を重ねて、ぽつりと呟いた。

「ねぇ、アデレード。好きだよ」

「Grazie.」

こうして告白するのも初めてではない。
ナランチャがいつ想いを伝えてもアデレードはありがとうと言うだけで私も、とは応えてくれない。

「……駄目かぁ……」

「言ったでしょ。18歳未満とは付き合わないの」

10回目に告白した時、ナランチャは中々進展しない関係性に痺れを切らしてアデレードに迫ったが同じ理由で避けられた。
拒否されたことはナランチャにとって悲しいことだったが、アデレードが断る理由が年齢であり自分のことを嫌っている訳ではないと解ると、ナランチャは翌日には同じようにアデレードに告白を繰り返しそれがずっと今日まで続いている。

「俺が18歳になったら付き合って」

「ナランチャの気持ちが冷めてなかったら……そうね。考えてあげてもいいわ」

「冷めないってばー!」

冷めない紅茶がないように冷めない愛などない。
アデレードは出かかったその言葉を紅茶と一緒に飲み込んだ。
ナランチャの真っ直ぐさが少しだけ羨ましく思った。



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