▼金魚とベッリーナ

ぱしゃん。こぽこぽ。ゆらり。ひらり。ぱくぱく。くるり。
不思議な感覚と音にゆっくりと目を開けると、目の前に大きな水槽があった。モーター音と水泡が反響している。
俺が水槽に近付くと水面がぱしゃんと音を立てた。何かいるらしい。透明な青に広がる赤に一瞬血かと思ってドキリとする。どうやら魚の鰭らしかった。
漁師をしていた父に連れられて海へと出ていたが、豪華で美しいドレスのような鰭を持つ魚など見たことがないが魚に違いない。
尾鰭を左右に降りながら泳ぐ姿は優雅で自然とほぅ、と息が漏れた。

「ご覧にいれましょう」

やけに科白がかった声がどこからともなく聞こえたかと思うと、水槽の水面からアデレードが顔を出した。
アデレードの胸から上が出ている。透明な水の下は先程から泳いでいるあの美しい鰭がゆらゆらと泳いでいた。
アデレードの身体の、腰から下は魚になっている。
水面から俺を見上げるアデレードは何ともあどけない顔なので、つい微笑んでしまった。
それを見るとアデレードもにっこり笑って「ほう」と言った。
ああ、生きている。
何だかこの水槽が羨ましくなってしまった。




「……それで?」

「そこで目が醒めちまった」

「おかしな夢ね」

「夢……ねぇ」

「ちょっと、ブチャラティ」

「こんな真っ赤なドレス着ている君を見たら、あれが夢なのかどうか解らなくなっちまった」

裾の長い真っ赤なドレスを着たアデレードをベッドに押し倒した。
俺を見上げるアデレードの眼差しは夢よりももっと成熟した色香を振り撒いている。

「本当に足が生えているのか確かめさせてくれ」

「……しょうがない人」

ドレスの裾から手を入れてアデレードの足を撫でていく俺に、アデレードはくすぐったそうに笑った。

「ほう」




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