▼32:フィレンツェ行き超特急とベッリーナA

ネアポリス駅6番ホーム。
フィレンツェ行き超特急を前にしてアデレードとプロシュートが見つめ合う。
アデレードの方へ歩き出そうとするペッシを制してプロシュートは後方のドアから列車に乗り込んだ。

「アデレード、乗って」

「……Sì.」

中々乗車しないアデレードに気付いてジョルノがホームの後方を窺いながら声を掛ける。
アデレードはプロシュートたちのことを気にしながらも乗車しようとステップに足を掛けたところで、ジョルノが焦った様子のブチャラティに気付いた。

「ブチャラティ?」

「ジョルノ、アデレードも先にトリッシュのところへ行って彼女を護れ……」

Che cosa è successo(どうかしたの)?」

「鍵を使って中から取り出すだけじゃあないですか……」

「ホームの水の飲み場……他にないよな……?違うんだ、これじゃあないんだ……」

ブチャラティの言うとおり、例の鍵は水飲み場にある元栓の蓋の鍵穴に全く刺さりもせず、そもそもその蓋には鍵などかかっていなかった。
ジョルノがブチャラティの背後にある消火栓に付いている錠前に気付いて言うが、鍵は違う形である。
ブチャラティが焦って彼らしくもなく取り乱す。

「ブチャラティ、ひと列車遅らせますか……?次の列車は15分後のローマ行きですが……」

Non va bene(駄目よッ)!」

「アデレード?」

「……敵の誰かがそろそら情報を掴んでこの駅に来る頃よ。一刻もここを去らなきゃ」

ジョルノの提案に珍しくアデレードが強く否定した。
ここで一本列車を遅らせれば先程乗り込んだプロシュートたちと入れ違いになってしまう。

「アデレードの言うとおりだ。だがしかしッ!6番線、亀のいる水飲み場……確かにここに間違いないのにッ!くそっいったいッ!?」

Una tartaruga()…….」

アデレードはステップから足を下ろしてブチャラティの背後から彼の手元を覗く。

「……あら?この亀の甲羅に鍵と同じ八角形の形があるのね」

Cosa()?」

アデレードの言葉にブチャラティが亀の甲羅を再度見ると確かに八角形の溝があった。

「そうか!この鍵は鍵穴じゃあなく甲羅に鍵そのものを嵌め込むんだッ!」

「嵌まったッ!」

ブチャラティが亀の甲羅に鍵を嵌め込んだ瞬間、彼の手は身体がガクンと倒れ手は亀の甲羅にめり込んだ。

「な、何だ!?この亀はッ!?」

「ブチャラティ!まさかこの亀……!!」

アデレードはめり込むブチャラティの片手を咄嗟に掴んで引き戻し、ブチャラティが瞬時に鍵を取り外す。
戸惑う二人をよそに、ホームに発車を報せるベルが鳴り響いた。

「ブチャラティ!アデレード!早く乗って!」

ジョルノが二人に向かって手を伸ばす。
アデレードはブチャラティの手を引き、ブチャラティは亀を抱えて列車に飛び乗った。
ドアが閉まり、三人はふぅと溜め息をつく。

「ギリギリね」

「ああ。アデレードのお陰だ。Grazie.」

「Prego.」

ブチャラティが繋がれた手を掲げて一礼すると、アデレードも倣って軽くカーテシーをした。
その様子を見ていたジョルノがコホンと咳をひとつして、間に入る。

「その亀、何なんです?」

「ああ、そうね」

アデレードはブチャラティから手を離して亀を見た。
ジョルノの後ろからトリッシュを護っていたアバッキオたちも集まってくる。

「さっき亀に鍵を嵌め込んだ瞬間、ブチャラティが亀に引き寄せられたように見えたのだけれど」

「Sì.恐らくこの亀はスタンド使いだ」

そう言ってブチャラティは再度亀に鍵を嵌めると、その中に引き込まれていった。
アデレードが亀の甲羅に嵌め込まれた鍵の赤い石を覗き込むと、部屋の中にブチャラティが立っている。
ブチャラティの手招きにアデレードは頷いた。

「……Vedo.(なるほど)

「オイ、アデレード!どういう事か説明しろ。ブチャラティは何処に行ったんだ?」

「説明は後よ。ブチャラティならこの中にいるわ。私の後に続いて入ってきて」

説明を求めるアバッキオにアデレードはそう答えて、先程のブチャラティと同じようにして亀の中へ入った。

「おっと!」

「Grazie.」

アデレードが入ると下で待っていたブチャラティがアデレードを受け止めるように支えてくれた。

「役得だな」

「ウフフ」

微笑み合う二人に続けて入ってきたジョルノは眉をしかめる。

「トリッシュが来ます」

「ああ」

ブチャラティが頷くとアデレードは彼の腕からするりと抜け出し、ジョルノの隣へ立つ。

「あまり妬かせないで、とアデレードに言うのは見当違いかな」

「そうね。惚れた方が負けなのよ」

アデレードはクスクスと笑いながらソファへと座った。





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