▼30:死の街とベッリーナ
バタバタと慌ただしい音と共にポンペイからアバッキオ、フーゴ、ジョルノが帰ってきた。
三人とも殴り合いでもしたのか口の端やら拳に血が付いていて、出迎えたブチャラティがぎょっとする。
「敵に攻撃されたのか?」
「まぁな」
「アバッキオ、待ってください。彼は本当に敵ではないかもしれないんだ」
「何処にそんな根拠があるんだよ」
「敵だという根拠もありません」
「ア"ァ?」
アバッキオとジョルノが対峙する横で一番負傷の大きいフーゴが溜め息を吐いた。
「ポンペイで男が待ち伏せしてたんですよ。手を貸すことになってるから探しているものを言えと、高慢な態度で」
「それで二人の意見が割れたってとこか」
「ええ。結局半ば競い合うようにして鍵を持ってきました」
「それがこれだと言うわけだな」
「はい」
ブチャラティがフーゴから受け取った金色の鍵を光に翳す。嵌め込まれた赤い石がキラリと輝いた。
「どんな男だ?」
「黒髪で長身の男です」
「そうか。──アバッキオ、ジョルノ。それくらいにしておけ」
ブチャラティはまだ言い合いをしている二人に声を掛け、その場を離れるとトリッシュの部屋へ向かう。
ミスタと廊下の見張りを交代したナランチャがトリッシュは寝ていることを伝えてくる。
「アデレードは?」
「中にいるぜ」
中を窺うようにドアを開ければ、ベッドにはトリッシュが寝ていた。
その寝息は乱れることはない。
ブチャラティがアデレードの姿を探すと、バスルームから話し声が聞こえてくる。
『アイツらに俺たちが手を貸すことくらい言っておいてくれたって良いだろう』
『それはさっきも話したでしょう。どうしてここまで怪我するようなことになるのかしら……』
『それはアイツらが……ッ!』
『……待って』
コツコツとヒールの音がドアに近付いてきて、ドアが開く。
「ハァイ、ブチャラティ。立ち聞きなんて、悪いコね」
「聞かれたらマズイことでも話してたのか?そこの彼とな」
ブチャラティの視線が鏡に向いている。アデレードがコンコンと鏡をノックすれば、イルーゾォが姿を見せた。
「暗殺者チームのメンバーか」
「イルーゾォだ」
「ポンペイで三人が手を組んだことを知ってるんだと早とちりして自分からむざむざと喧嘩を起こした張本人よ」
「俺が悪いのか?」
「結果として対立しているように見えたんだから良いんじゃあないの?」
「そうだろう」
「……そういうことよ、ブチャラティ。私が気になっていたのはこういう事態よ」
「……Ah capito.」
アデレードの言い分を今度こそ受け入れて改めなくてはならなくなったブチャラティは額に拳を置いて唸るように頷いた。
「うちの部下が失礼した。伝えなかった俺の責任だ」
「やっぱり俺の所為じゃあねぇじゃあねぇか」
「もう解ったってば」
イルーゾォの執拗な責任逃れにアデレードはうんざりしたように首を振る。
小声で「Mi dispiace」と呟いたアデレードにブチャラティは「君が謝ることじゃあない」と返した。
「そろそろ移動する。トリッシュを起こしてくれ」
「Sì.」
「次は何処へ行くんだ?」
「ネアポリス駅6番ホーム。そこから列車でヴェネツィアまで行く」
「ヴェネツィア……今から最も早いのはフィレンツェ行きの特急か……。Bene.後に引き継ぐ」
そう言ってイルーゾォは再び鏡の中へ消える。
反転した世界にはトリッシュとアデレードの姿が映っていた。
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