▼25:隠れ家とベッリーナ

ブドウ畑が広がる長閑な風景に溶け込むように建つ一軒家はブチャラティチームの隠れ家のひとつである。
先程護衛を任されたトリッシュを連れて、一時的にここに身を寄せた。
トリッシュを個室に移させると、そのドアの前にミスタとブチャラティ、階段にはジョルノとアバッキオ、玄関前にはフーゴとナランチャが警備の配置につく。
アデレードはと言うと、キッチンで買い出し用のメモをまとめていた。

「レオーネ。メモの確認をしてくれる?」

「ああ。……本当にアデレードが行くのか?」

「Si.トリッシュの化粧品やストッキングをあなたたちの誰かでも買える?」

「それくらい買えるだろ」

「女の私が買った方が怪しまれないわ」

「……何かワケがあるのか?」

「何のこと?」

「さっき、船の上でブチャラティと話してただろ」

「葬式について話してただけよ」

「俺に嘘ついてもすぐバレるんだぜ。再生すればすぐ解る」

「私はレオーネの良心を信じているわ」

「チッ!」

アバッキオの舌打ちにもアデレードは怯まず、ふふと微笑むだけで階段を上っていく。
トリッシュの部屋の前にいるブチャラティがアデレードに気付いた。

「買い物リストは出来たか?」

「Si.レオーネにも確認してもらったから大丈夫よ」

「それなら俺は着替えて来よう」

「私も後から行くわ」

ブチャラティと入れ違いにアデレードがドアの前に立つ。
廊下の窓際の影に佇むミスタにトリッシュの様子を尋ねると、首を横に振った。
どうやらまだ機嫌は直っていないらしい。

「トリッシュ」

アデレードがノックの後に声を掛けると、中から「どうぞ」と返事があった。
ドアを開けて見れば、トリッシュは窓際に立って外を眺めていた。

「窓から離れて、トリッシュ。そこでは危険だわ」

アデレードの注意にトリッシュは目も合わせずに窓から離れてベッドへと座る。

「これから外出してくるから、その帰りに頼まれたものを買ってくるわ。ハンカチ、フランス製のミネラルウォーター、ストッキング、GIVENCHYの2番のチーク、ヴォーグ最新号……他に追加で欲しいものは?お腹は空いてないかしら?」

「……それじゃあ何か食べるものをお願い」

「好き嫌いは?ある?」

「カニが好き。もし売ってたらサラダも忘れないで。すっぱい味のドレッシングにしてね」

Sì, Signorina(畏まりました).」

アデレードは恭しくカーテシーをすると、ドアへ向かう。
トリッシュに慇懃無礼と取られたかもしれないが、必要以上に彼女に媚びることもないと思い直したアデレードはそのまま部屋を出た。
恐らくトリッシュは自分のような女が嫌いだ。
実家のある町で暮らしていた頃のアデレードからは想像がつかないほど、ギャングになってから同性から好かれることは格段に減った。

「アデレード」

「なぁに?」

「いや、黙ってるからどうしたのかと思ってよ」

「どうもしないわ。ミスタ、何か欲しいものある?」

「あ〜……それじゃあサラミを頼む」

Ah capito(わかったわ)!ピストルズのね。サラメ・トスカーノにするわ」

「Grazie!ッオイ!お前たち!」

「グラッツェ!アデレード〜!」

「大好キダゼーッ!」

「ヤッター!サラミダー!」

「嬉シーッ!」

「俺タチ、待ッテルカラナーッ!」

「早ク帰ッテコイヨナーッ!」

ミスタの背後から飛び出してきた彼のスタンドであるセックス・ピストルズがアデレードの周りでじゃれつき始める。

「ピストルズ、擽ったいわ。ウフフ、いたずらっ子なんだから。良い子で待ってて」

アデレードは口唇に押し当てた手のひらピストルズたちに向けて、フッと投げキッスをした。
ピストルズたちは勿論、それを一番後ろで眺めていたミスタも流れ弾を喰らったかのように胸を押さえる。

「……これは、効いた、ぜぇ……!撃ち抜かれちまった俺のハートをアンタで埋めてくれよ、女神様」

「本当に風穴が空いた時には埋めてあげるわ」

ミスタの軽口にアデレードはひらひらと手を振ってかわし、階下へ下りた。
アデレードが玄関の壁に架かる鏡を見て身支度を整えていると、鏡の中に反転したブチャラティの姿が映った。
彼はいつもの白いスーツではなく黒いスーツを着ている。
喪服だ。

「待たせたな。行こう」

「Si.」

「ベッラをエスコートして向かうのが葬式っていうのもギャングらしいな」

「不謹慎ね」

ブチャラティが差し出した腕にアデレードは手を伸ばした。
フーゴとナランチャに送り出されて二人は車へと乗り込み、ポルポの葬式へと向かう。
走り出した車内で、アデレードはずっと気になっていたことを運転するブチャラティに尋ねた。

「……ねぇブチャラティ」

「なんだ?」

「いつもあなたが着ているスーツの柄なんだけれど、喪服にもその柄ってあるのね」

「これは特注品でね。俺の故郷の伝統的な柄なんだ」

「故郷を大切に想っているのね」

「そう思うか?」

「じゃなきゃ特注で誂えたりはしないでしょう。不思議な柄だけど、似合ってるわ」

「これが葬式に向かうんじゃあなきゃ、初めてのデートとしてはまずまずだったな。残念だぜ」





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