▼24:トリッシュとベッリーナ

隠し金は公衆トイレの便器の中に隠されていた。
ブチャラティはそれをペリーコロに全て渡し、組織へ上納した。
金の出所について、ペリーコロは何も尋ねない。組織としては金を納めてもらえればそれで文句はないらしい。

「おめでとうッ!ブチャラティッ!君を幹部の地位に昇進させようッ!」

「や……やった……ブチャラティ!幹部だ!ついにブチャラティが幹部になったぞッ!」

ナランチャが一等大きく喜びの声をあげる。
ブチャラティは金で幹部の座を手に入れた訳ではない。
この金が示すのはブチャラティにしかるべき頭脳と信頼があったという証だ。
自殺したポルポもこの世で最も大切な事は信頼だと言っていたことをアデレードはふと思い出していた。
ペリーコロがブチャラティに詳しい説明を始めた。
それは死んだポルポの今まで仕切っていた縄張りの権利をブチャラティが継ぐものとし、ネアポリス地区の賭博およびスポーツ賭博の営利権、高利貸しの支配権、港の密輸品の管理、レストランやホテルの支配権などに当たる。
そしてそのあがりの50%が組織、残り50%がブチャラティの取り分となるということだった。

「ところで……じゃ……」

ペリーコロが声のトーンを落として話を切り出す。

「ポルポの仕事の権利を受け継いだ君にさっそくじゃが……ポルポのやつは生前ひとつだけ仕事をやり残していたままでのう……。ポルポがやり残した仕事は当然ブチャラティ……君が受け継ぐというわけだ。ここのところはいいかね?」

「ポルポがやり残した仕事?」

「ボスじきじきの命令なんじゃよ。命令がポルポのやつに行く直前にやつは自殺してしまいおった」

ペリーコロの口から出た『ボス』『命令』という二つの言葉に全員が驚く。
これまで誰もその姿を知らないボスという存在が一気に近くなったことに、アデレードは一抹の不安を覚えた。

「ボス……!?ですって……!!」

「そう……ボスの命令じゃ!ここで君に伝えるぞ!ブチャラティ……。『ボスの娘を護衛する事』……『命を賭けて』……以上じゃ」

「娘!!娘ですって!?ボスに娘がいるんですかッ!」

「護衛は今より始まる。渡したぞ!ブチャラティ」

「渡した……?」

「ブチャラティ……。後ろの彼女よ」

ナランチャを返り討ちにした清掃員が女性だということに初めから気づいていたアデレードがブチャラティに告げると、ブチャラティはペリーコロの後ろに立つ清掃員に目を向ける。
分厚い眼鏡の奥にマラカイトグリーンの瞳が輝いていた。

「この人が……か?」

「トイレ……行っても?」

「かまわんよ、トリッシュ。」

「取り敢えず……ガードにつけ。命令は始まっている……」

彼女の申し出にペリーコロが頷く。
トリッシュというのが彼女の名前のようだ。
ブチャラティはフーゴたちに指示を出した。女性トイレの中に入るためにアデレードもトリッシュのガードにつく。

「中までついてこなくてもいいわ」

「命令は聞けないけれど、我が儘ならいくらでもsignorina.」

アデレードが出ていかないことを悟ると、溜め息をついたトリッシュはバタンとトイレのドアを強く閉める。
アデレードはやれやれと言った風に、はぁと溜め息をついた。
トリッシュの入った個室のドアの前に立ち、アデレードは自分の影が伸びていることを確認すると、スタンドを出した。
アデレードの影とトリッシュの影が重なる。
これでアデレードがトリッシュの足音を把握できるようになった。
影のある場所がアデレードのスタンドの射程距離になる。
もし仮に何者かが暗闇に紛れてトリッシュを連れ去ろうとも、アデレードにとってそれはスタンドの能力を最大限に引き出せるのだ。
がさごそと物音を立てていた個室のドアが開く。
清掃員の姿から一変して可憐な少女が現れた。
トリッシュ本来の姿に、入り口で警護していたフーゴたちは目を奪われる。
トリッシュはフーゴに声をかけ、フーゴに服を脱がせると彼女はその服で手を拭いた。フーゴの額に青筋が浮かぶ。

「ハンカチないからハンカチ買ってきてね。それとストッキングの替えとGIVENCHYの2番の頬紅、イタリアンヴォーグの今月号もお願い。ストッキングは太もものところに補強が入ってないとダメ。それとミネラルウォーター。フランス製じゃあなきゃ死んでも飲まないことにしてるの、あたし」

アデレードから言われた事への反抗だろうか、トリッシュが次々と要求した。
フーゴはスーツをハンカチ代わりにされて怒り、そのスーツを地面に投げつけている。
ミスタとナランチャは面食らいながら、アデレードに何があったのか尋ねた。

「何かあったのかよォ?」

「喧嘩はマズイんじゃあねぇの?」

「別に何も。女の子の我が儘なんて可愛いものだわ」

アデレードは首を横に振る。トリッシュが髪を整えながら青い海に背を向けて歩き始めた。

「その景色を眺めるのに飽きたら早速買ってきてね」





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