▼14:ペッシとベッリーナ
アジトに集まって、アデレードがぽつりぽつりと話し始めるのを全員がじっと聞いていた。
ブチャラティとアバッキオ以外のメンバーは既にアデレードの身辺調査の報告書を読んだばかりだ。
「二人は知ってたんだな」
「新メンバーの身辺調査をするのは決まりだからな」
「その調査を引き受けたのが俺だ。俺のスタンドを使えば早いからな」
ミスタの質問にブチャラティが答える。
アバッキオはムーディー・ブルースで見た、服を破かれて血溜まりに座るアデレードの姿をふと思い出した。
「個人的な過去を詳しく知る必要があったのはブチャラティだけ。……それが何故話す気になったんですか?」
ジョルノがアデレードに話の続きを促す。
「私がデイジーで男たちを殺した後、勝手にシマを荒らしている犯人たちを始末するためにギャングがやってきたの。……私と男たちの死体を見て私がスタンド使いだと解ると彼は、このまま俺に殺されるか俺たちの傍でギャングになるか選べと言ったわ。……私は彼についていって生きることを選んだ」
「……Assassino.」
ジョルノがふと以前アデレードとゲームをしていた時に以前いたチームについて話していたことを思い出した。
「Si.私を拾ってギャングに育てたのは暗殺者チームのひとりよ」
「ホルマジオやポンペイでアデレードを拐ったやつも暗殺者チームのやつらか!?」
ナランチャの質問にアデレードは黙って頷く。
黙って話を聞いていたブチャラティが何かに気付いて舌打ちをした。
「……プロシュートもか」
「Si.彼が私を拾ってギャングにしたの」
アデレードの答えにブチャラティは頭を抱えて溜め息をつく。
その様子に見兼ねたアバッキオが質問を続けた。
アバッキオは以前尋ねた時にははぐらかされた答えに僅かに動揺していた。
「プロシュート……コードネームか」
「Si.……彼は何も知らない私にギャングとしての心構えや仕事のやり方、全てを教えてくれた。私にもオンブラとコードネームを名付け、チームの中ではその名前で呼ばれていたの。……でも恋人になってからはたまに本名のアデレードと呼ばれることもあったわ」
「こッ……恋人ォォォォォォッッッ!?」
驚いたミスタが叫んだ。他のメンバーも一様に驚いている。
大きな声に耳を塞いだアデレードがうんざりしたように答えた。
「とっくに別れてるわ。私がチームを抜ける少し前に」
「一回じゃなくて二回殴る理由が出来たな」
「おう、アバッキオ。俺も協力するぜ」
「全員で一回ずつ殴ろうぜ!」
「……でもどうしてブチャラティが知ってるんですか?」
「知り合いなんですか?」
「さっき逢ったばかりだ。アデレードとよりを戻したいらしく口説いてたぜ」
「ハァ?口説いてたぜ、じゃないですよ!何してたんだアンタ!?」
「どうせまたシニョーラに捕まってたんでしょう」
「……言っておくが俺が一番嫉妬してるんだぞ!?」
「何の自慢にもならないわよ、ブチャラティ」
話しの収拾がつかなくなっていた。
アバッキオとミスタ、ナランチャはプロシュートを殴ることについて盛り上がり、フーゴとジョルノはブチャラティを問い詰めている。
アデレードが肩を竦めて溜め息をついた時、玄関に人の気配を感じた。他のメンバーは気付いていない。
アデレードのスタンドはこの影と足音を知っていた。
立ち上がって玄関に近付くと、ドアから釣り針と釣糸が延びている。
アデレードは静かにドアを開けると、男が立っていた。
突然開いたドアに男は驚く。
「Buonasera.ペッシ」
「ッ!?ア、姉貴ッ?……えっと、Buonasera.」
「あぁ、もうその呼び方嫌いなのよね」
「すいやせん……」
ペッシが項垂れる。彼はかつての弟分であり、プロシュートとアデレードが恋人同士だったことも知っている為、アデレードのことを姉貴と呼ぶ。
「よそのチームのアジトにスタンドを使って探りを入れようなんてどういうつもり?死にたいの?」
「お、オイラはただプロシュート兄貴が心配で……!」
「プロシュートならここにはいないわ」
「オイラが心配しているのはプロシュート兄貴と姉貴……あっ、アデレードさんとのことです。やり直すことは無理なんですかい?」
「ペッシ、ペッシ、ペッシ。よく考えて。あのプロシュートが弟分に世話されて私とよりを戻すだなんてあり得ると思う?彼はこういうことが一番嫌いよ」
「……でも、」
「良い?男は、況してギャングは『でも』なんて言わないの。覚えておきなさい、マンモーニ」
アデレードに叱られてペッシがしゅんとする。
そこにミスタが戻ってこないアデレードに気付いて玄関にやって来た。
「おい、アデレード。まさかそいつも暗殺者チームのヤツか?」
「ミスタ、銃から手を離して。彼はもう帰るわ」
「……おい、お前。アデレードに免じて逃がしてやる。だが二度目はねぇぞ」
「ひッ!」
「ペッシ。プロシュートに伝えておいて、近いうちに必ず行くと」
アデレードの言葉に頷いたペッシは慌てて帰っていく。
ミスタがアデレードの背中を閉まるドアに押し付けた。
「どうして逃がした?」
「逃がしたのはミスタでしょう」
「アデレードが言ったからな。俺は逃がしたくなかった」
「今ここでペッシを殺ったら暗殺者チームと戦争になるわ」
「女神様の為なら易いモンだぜ」
「そう言うと思ったからペッシを逃がしたのよ。もう良いかしら?」
アデレードがミスタの胸を押して腕からすり抜けようとすると、ミスタはワンサイドにしている髪の毛から見えている方のアデレードの耳にキスをした。
「次は逃がさねぇ。覚悟しておきな、女神様」
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