▼花火とベッリーナ

普段より広場には若者たちの姿が目立つ。それもそのはずで、今日は12月31日。
一般的には家族で過ごしたり気の合う者たちと騒いだりするのだろうが、ブチャラティはそれのどれとも縁がない。
喧騒から少し離れたところで来るべき人物を待っている。
真っ暗な煉瓦道から、零れたインクのようにぬるりと現れたのはブチャラティの待ち人に違いなかった。
煉瓦道では歩きにくいハイヒールは鳴らなかったのは彼女の能力による。ブチャラティに近寄った一歩でようやくひとつコツ、と鳴った。
ブチャラティが名前を呼べば応えるように紅い口唇がキュッと上がる。そう言えば新色のベルベットリップが良いのだと話していた事を思い出して褒めようと言葉を選ぶが、どんな言葉を用いても目の前の彼女の美しさを喩えられるとは思えなくて止めた。

「良い夜ね」

ブチャラティの躊躇いなど全て見通したかのような微笑みに頷く。

「そろそろ時間だな」

時間を確認するとそろそろ仕事の時間である。
広間に集まっている人々は電光掲示板に表示されたカウンターに合わせてカウントダウンを始めていた。

「カウントダウンの花火に乗じて終わらせましょう。今夜は早く帰って温かいベッドで寝たいわ」

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