引き寄せて反発しあうように


第一印象は『生意気で口うるさい奴』これに尽きる。

「ねぇ!第3打席の初球、あれ狙ってたの?」

シニア時代に出会った、頭の切れる気になる捕手。俺にしては珍しく、自分から声をかけた相手が一也だった。

「あんなに綺麗に打ち返されたの久しぶりだったからさー」
「言う訳ないじゃん、今後も戦う相手の弱点なんて」
「弱点!?何それ聞き捨てならないんだけど!」

ちょっと待て!と引き止めようとした時、割り込んできたのがこの女。

「ねぇ早く帰ろうよー、もう迎え来てるよー」
「いま男同士で話してんだけど!?関係ない女は引っ込んでろよ」
「はぁぁ?関係ないのはそっちでしょ」
「選手でもない奴が偉そうに何なの?」
「幼馴染の応援に来ちゃ悪いですか?こっちは関、係、者!知り合いでもないあんたこそ引っ込んでな!」
「名前やめろって、ハイもう帰るぞー!」

この俺に向かって「あっかんべー」と舌を出し悪態を吐きながら一也に引っ張られていく奴のことを今日の今日まで忘れたことはない。江戸川シニアの捕手の幼馴染、生意気で口うるさい女。名前って言ったっけ?覚えたぞ。絶対忘れてやんないからな!









「あれ、お前確か一也の幼馴染の…」
「うっわ!出た!成宮鳴!」
「何、青道入ったの?高校も一緒なわけ?どんだけ一緒にいんの、キモっ!」
「あんたに関係ないでしょ!?」
「しかもチア?似合ってねーし!」

次に再会したのは高一の夏。夏大で当たる学校の偵察のために足を運んだ球場でたまたま出会った名前は、あれから数年経っても相変わらず一也の隣にいた。白い肌を惜しげもなく露出してミニスカートなんか履いちゃって、なんなの、これで男が寄ってくるとでも思ってんの?

「お前高校生になっても名前に絡むのやめろよなー」
「だってこいつ俺に歯向かってくるし。ムカつくじゃん!」
「あんたが偉そうな口聞いてくるからでしょ、なんなのほんと!」
「相変わらず生意気で口うるさい女!一也のコブ!金魚のフン!」
「何だと〜!?」

塩持ってこーい!と高らかに叫ぶ名前に「誰も持ってねーから」とつっこむ一也。
つーかなんで俺フルネームで呼び捨てにされてんの?稲実の成宮鳴だよ?普通、黄色い声援で鳴くーん!でしょ?
ここまで女子にコケにされることないんだけど。ありえない。ほんとムカつく名前の奴。


(20210103)
prev top next

- ナノ -