まばゆい可視光線の先


次に成宮鳴とエンカウントしたのは数日後。青道と直接対決する、西東京地区予選準決勝の日だった。

「また応援来てんの?飽きないねぇ。どうせ勝つのは俺らなのに」

成宮と遭遇したくない。ただそれだけの理由のため、試合開始時刻より大幅に早い時間に球場入りしたはずなのに何の因果か出会ってしまった。最悪だ。せっかく早起きして準備したというのに、計画も努力も全て水の泡だ。

「なんでこんな早くから球場来てんの?試合まで結構時間あるよね?」

しつこく話しかけてくる成宮の声をシャットアウトしながら考える。わたしだってバカじゃない、どうせ喋ったっていつもみたいに喧嘩になるのがオチだ。だったら最初から不毛な争いは避けたいというところ。これから準決勝の応援があるんだから、体力はなるべく温存しておきたい。
女子高生の最強暇潰しアイテムとも言えるケータイをポケットから取り出して、必殺「メールに夢中になる」フリ。成宮なんて見えない聞こえない。お願いだから空気を読んでどこか遠くへ行ってくれ!

「ねぇ聞いてんの?無視すんな名前!」
「ちょっと、呼び捨てしないでよ!」

しまったと思った時にはもう遅い。あっけなく打ち砕かれてしまった必殺技を未だ手にしたまま、心が折れる音が聞こえた。成宮鳴、恐るべし。

「だって俺お前の苗字知らねーし」

苗字を知らない?そういえばそうだっけ。なんて思ってみるが、冷静に考えてみればおかしな話だ。なんで成宮なんかに苗字を教えなきゃならんのだ。ついでに言うと名前を知られた方が腹立たしいのだが、うっかり一也が呼んでしまったのだから仕方がない。
そんなことを考えていると右手に持っていたケータイをひょいと奪われて、宙を舞ったそれは成宮の手中に消えていった。

「ちょ、返して!」

慌てて取り返そうとするも器用にかわされて弄ばれてしまう。それどころか成宮は自分のケータイを取り出して、二つの画面を交互に見ながら高速で何かを打ち始めたではないか。
ていうか早っ!女子高生か!

「ほら、成宮鳴様の連絡先登録しといてやったから」
「何してくれてんの!?速攻削除!」
「あーダメダメ、俺のケータイにもお前の連絡先登録してあるし」
「は…はぁ?」
「苗字名前かぁ、地味な苗字〜」

なんだと!?先祖に謝れこの野郎!
怒鳴りながら返却されたケータイの画面をみると不在着信が一件。確認すると【成宮鳴】と表示されている。更には受信メールが一件。成宮鳴から【バーーーーカ】と一通メールが入っていた。

「仕事早すぎ!無駄すぎるスキル…」
「しょうがないからメールしてあげるよ、無視したらぶっ殺すからね」
「何言ってんの…?頭大丈夫?」

決勝戦は俺のこと応援してもいーよ名前チャン。なんて、どの口が言ってんだ!
勝つのは青道だから、決勝戦行くのはウチだから!


(20210104)
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