待ち侘びた夜明け


成宮からの連絡を全て無視して数週間、晴れない気分のまま迎えた冬休み。何もやる気が起きずクリスマスも大晦日も家に引きこもって過ごしていると、寮から帰省した一也が押しかけてきて正月早々初詣に連れ出されてしまった。

「ちょっと寄り道してから帰ろうぜ」
「はぁ?どこ行くの」

参拝を終えて御神籤を引き、そろそろ帰ろうかというところで神社近くの公園へ連れて行かれた。何だってこんな所に?訳がわからず一也の背中を追いかけていくと、見覚えのある金髪頭と遭遇してしまった。

「うわー出たー尻軽女」
「げっ、キス魔の変態男…!」

何故成宮がここに!驚いて固まっていると隣に立っていた一也は「あれー?鳴じゃん、偶然〜」なんて言いながらわざとらしく笑っていた。何が偶然だ、コイツご近所でも何でもないだろ!

「ちょっと一也!ハメたな!?」
「何のこと?あ、俺用事思い出したから先に帰るな」
「待って!」

引き止めの声も虚しく一也は手をヒラヒラ振りながらこの場を去っていく。あっという間に二人きりにされてしまい、恐る恐る後ろを振り返ると不満そうな顔をした成宮がわたしを睨んでいた。
最悪だ。あのクソメガネなんてことしてくれたんだ!

「…立ち話も何だし、とりあえずどっか座ろうよ」

この間のように走って逃げてしまおうか。そう考えている間に成宮から声をかけられてしまい、チキンなわたしはそれに従うしかなくなった。







「なんで連絡返してくんないの」

公園のベンチに座るや否や口火を切ったのは成宮だった。やはり電話もメールも無視し続けたことを怒っているらしい。そりゃそうだ、わたしだって夏に連絡を無視され続けた時にはさすがに傷付いた。
だけど連絡をとってしまえば会いたくなる。会ってしまえば辛くなる。いつまで経っても出せない答えについて考えるのはこれ以上無理だった。

「もう成宮と二人で会うの辞めたい」
「ハァ!?なんで!」
「だって、この先の試合、どっち応援して良いか分かんないよ…」

成宮を応援したい気持ちはもちろんある。だけど1年近く通った青道高校に愛着が湧いてしまうのは当然だ。ずっと傍にいた一也を応援し続けたい気持ちもあるし、野球部のクラスメートや先輩たちの努力も無視できない。それに何より、わたしはチアがやりたくて青道を選んだのだ。そんなわたしが天敵の成宮にうつつを抜かすなんて、許される訳がない。

「俺のこと応援してよ」
「何でだよ」
「俺のこと好きだからに決まってるじゃん」
「それ自分で言う!?バカじゃない?どんだけ自意識過剰なの!」
「だって本当のことじゃん!俺が名前のこと好きなんだから、名前も好きでしょ、俺のこと」

なんなんだその超理論。開いた口が塞がらない。ふざけてんのかと思わず叫びそうになったけど、目の前の成宮は真剣な顔で自分の主張をひたすら訴え続けていた。

「そうなんでしょ。ねぇ、どうなのさ!」

いつになく真面目な顔でわたしに迫る様子に張り詰めていたものがプツンと切れた。
ダメだ、負けた。もう誤魔化せない。

「〜〜っ、そうだよ!」
「え」
「ムカつく!なんでわたしこんな男のこと好きになったの!」
「はぁ〜!?何ソレ!素直に認めろよ!」

普段は子供みたいにはしゃいで笑うくせに、マウンドの上ではどんな相手でも捻じ伏せてやると言った傲慢で強気な王様の顔になる。テレビで見たその顔が、どうしても頭から離れないのだ。
練習嫌いの割には人一倍努力していることも知っている。自己中心的でワガママなのがたまにキズだけど、それはマウンドを誰にも譲らないという確固たる自信の現れ。
成宮に出会って、エースとはこういう存在なんだと思い知らされた。これで惹かれないほうがおかしい。

「好きだよ、好き。腹立つけど、好き」

ぽろぽろと溢れるわたしの本音を聞いた成宮は、喜んでいるのか小さく震えながら口を固く結んでいた。
え、あれ、意外な反応。もっとドヤ顔でウザい絡み方されると思ったのに拍子抜けだ。
呆気に取られていると距離を詰められてキスされた。だけどこの間のような乱暴なものじゃなくて、ひどく優しいキスだった。触れるだけのそれを終えると、頬に手を添えられて瞳を見つめられる。それに思わずときめいてしまうと再び唇を重ねられた。夢じゃないかと思うほど、足元がふわふわしてとろけそうだった。

「はぁ…やばい、可愛い」
「な、何」
「誰にも渡さない」

初めて見るデレデレな態度に、初めて耳にする甘い言葉。これは本当にあの成宮鳴なのかと疑ってしまう程だった。
驚いて上手く反応できずにいると強く抱きしめられて、また胸が高鳴ってしまう。
恥ずかしくて嬉しくてどうしようもなくて、たまらずわたしも彼の背中に腕を回した。


(20210117)
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