随分と歳の離れた年下彼氏がいつまで経っても手を出してこないもんだから、やっぱりオバサンには興味ないんだろうか、とか、スタイルには自信あるはずなんだけどこの歳でミニスカートってやっぱりアウトだったか、とか、ていうか今更だけどあたしってほんとに彼女なんだよね?なんてぐるぐる考えてるうち、思考回路がショート寸前まで追い詰められたとでもいうのか、気付いたら彼を押し倒して半ば無理矢理に唇を奪っていた。

「ん、はぁ」
「ちょっと…いきなり何」

 初めて触れた彼の唇は予想以上に柔らかく、潤いがあって、心地良くて。あぁ、若いっていいなぁ。なんてわけのわからない嫉妬に駆られる自分。
 そんなあたしを見つめる彼は突然の行為に多少なりとも驚いていたようだったが、それもほんの、一瞬のこと。

「はは、欲求不満ですか」

 人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、仮にも大人だというのにはしたない、とでも言いたげな余裕綽々な態度。これにはさすがのあたしもカチンときた。
 元はと言えばあんたがいつまで経っても手を出してこないのが悪いんでしょ。あたしのこと本気で好きじゃないんならさっさと振ってくれよバカヤロー。いくらあたしが年上だからって、態度で示してくれなきゃ大人の女も不安になるんだからな!
 …なんて高校生の彼に怒鳴るわけにもいかず、ぐっと唇を噛み締めるだけのあたしは文字通りヘタレでございます。いいさ、この際なんとでも罵るがいい。
 自暴自棄に暮れていると途端に胸が虚しさでいっぱいになった。あ、やばい、どうしよう泣きそう。
 こんなダサい顔、年下のこの男には見られたくない。これ以上幻滅されたくない、嫌われたくない。

 あぁ、なんだ、あたし蛍のこと、こんなに好きだったんだ。

「…アンタ、年上のくせにヘタクソ」
「はぁ?何が、」

 ヘタクソ、だと?喧嘩腰の言葉に思わず条件反射で反論しようとしたがそれは叶わなかった。むくりと身体を起こした彼の右手で強引に顔を引き寄せられ、この可愛げのない言葉ばかり吐き出す口を塞がれてしまっては反論のはの字も言えないからだ。

「ん、んん!」

 あたしが仕掛けたときよりも乱暴なくせに、どこか優しい彼の唇。啄ばむようなキスの合間に蛍の舌が歯列をなぞり、恐ろしいほど冷静に、だけどねっとりと執拗に、あたしの意識を奪っていった。

「っ、ふぁ…」
「どうせするならコレくらいしなよ」

 好き勝手弄ばれた舌や唇を解放されたかと思えば追い打ちをかけるような挑発的な言葉が降ってくる。いつもクールぶってるキャラのくせに、こんな官能的なキス、一体どこで誰に教えてもらったというのだろう。
 そんな事を考えつつも予想だにしない突然の攻撃に酸欠になったのか目眩を覚え、床に座り込む姿勢を取っていた身体が後方にふらりと揺れる。「いい大人がコレくらいで情けない」そう呟きながら咄嗟にあたしの腰へ腕を回した彼はどうしようもないといった呆れ顔をしていた。ムカつく。この上なく腹立たしい。だけど、やっぱり、好き。

「何その顔、物足りなかった?」

 ニヤリと黒く嗤う、年下のくせに余裕綽々で生意気な彼。捻くれ者で性格が悪く、年上に対する敬意が全く感じられないどうしようもない奴だけど、そんな蛍が愛おしくてたまらないあたしは彼以上にどうしようもない奴かもしれない。


(20160622)
(20201029/再録)


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