「うわぁっ、すごいきれーい!なにあれ!」

もこもこのムートンコートに身を包み海に向かって身を乗り出す、興奮している****の視線の先には巨大な氷のオブジェが街の中心から高く高く顔を出していた。その中にはきらきらと彩りを見せるイルミネーションがあるようで、赤や緑や青や黄色、虹色に氷が照らされている。

「ふふ、氷祭りかしらね。」
「?なあに、それ。」
「気温が一年を通じて零下の島では、雪や氷で創る芸術が観光の名物になっている所もあると、前に文献で読んだことがあるわ、その証拠にほら、」

ロビンの長い指の先を辿れば、客船から次々に人が降り立っている。

「すごぉい!!!」
「ふふふ、せっかくだからコックさんと見に行ってきたらどうかしら?」
「え?…なんでサンジと?こうゆうの、ルフィ達と行ったほうが楽しいよ?」

****の金色の大きな瞳が丸くなり、きょとん、とした表情になる。そんな彼女にロビンが苦笑いを浮かべていると、ルフィが****を呼ぶ声が聞こえてきた。

「ほらっ、ロビンも行かない?」
「そうね、でも、先に私は本屋へ行ってみるわ。用が終わったらあなたたちを探すから。」
「わかったっ!じゃあナミ〜!ロビン〜!行ってきまあす!!」
「あ、****〜!ルフィにくれぐれも暴れないようにって言っておいてよね〜!」

はーい!、と嬉しそうにはしごを降りていく****を見送りくすりと笑みを浮かべたロビンが船内への出入口に目を向ければ、サンジがじっと、楽しげに街へ降り立った少女のことを見つめていた。ゆったりと彼に近寄ると、気の抜けたような彼らしからぬ顔をしている。

「あなたも大変ね。」
「ロビンちゅわん…」
「一応トスはあげたんだけれど、見事に決められてしまったわ。私の負けね。」
「君が言うと可憐すぎて逆に悲しいぜロビンちゅわん…」

がっくりとうなだれる金髪の青年に、ロビンは優雅に笑みを浮かべた。二年ぶりに再会した彼女はより一段と落ち着きを増していて、男なら皆彼女に見とれてしまうだろう。サンジももちろん例外ではなく、ロビンの横顔に暫し鼻の下を伸ばしていた。(そんなサンジに気付いたナミが呆れていたのだが彼の知るところではない。)ところで、とロビンが口を紡ぐと目をハートにしたサンジがなんですかロビンちゅわん、と今にも鼻血を出しそうな口調で応えた。彼女が次に指を差したのは大きな海賊船。

「トラファルガー・ロー達も来ているのね。あの子達、気付いていないようだったけれど。」

コックさんは気がついてたかしら?

トラファルガー・ローといえば、リディアの小さな体と可愛らしい容姿に加えて特殊な能力を持つことから以前シャボンティ諸島でオークション中に彼女を口説いていた(実際には仲間にしようと声をかけていた)のも二年経ってもよく覚えている。更に面白くないのが、空白の二年間、彼女は彼の船にいたこともあったと話を聞いていた。あの男前過ぎる外科医に二度と****を逢わせたくない。ロビンが指差す海賊船と彼女を交互に見たあと、サンジは慌てて街に向かって行った。

「恋は盲目、周りも見えず、か。」
「あら、あなたは行かないの?」
「こんな寒い島になんか絶対上陸したくないわ。それにあたし、面倒なことは嫌いだしね。」

苦笑いを浮かべると、海図でも書いてのんびりしてるわと言ってナミは船内へと歩いて行く。そういえば船番は彼だったわね、と思い出したロビンはくすくす笑っていた。



街の中は至る所に氷のオブジェが創られていて、道行く人々は氷に触れたり周りを一周したりしながら、ゆっくりと会場に向かう姿も見られた。メイン会場となっている広場には数々のオブジェがあり、ほとんどが建物よりも高い。

「うっひゃー!すっげえなおい!」
「こんな綺麗な氷初めて見たぞオレ!」
「おい見ろ!鼻水も綺麗に凍る!」

ルフィ、ウソップ、チョッパーが聳える冬の芸術の美しさに感激しつつ、ドッヒャッヒャっといつものように三人で笑っていたとき、チョッパーがあることに気がついた。

「おい、****がいないぞ!」
「!ほんとだ!」
「あいつどこ行ったんだ?」

つい先刻まで、真ん中を陣取り一緒に歩いていたはずの仲間が居ない。はぐれた、いや、見失ったなどサンジに知れたらどんな仕置きを食らうことか。****とルフィが海軍に追われながら船に戻ってきたときはあのルフィのご飯が三食抜かれたことがあり大変な目にあった。ルフィとはぐれて行方が不明になった****が翌日無事に戻ってきたときは、以下略。とにかく、****が絡むとサンジはなにかとうるさいのだ。

「帰るまでに見つけないとサンジがうるせえな。」
「いいじゃねえかー。そのうち来るだろー?」
「お前そんなこと言って、もしはぐれた状態でサンジに逢ったりしてみろよ、また飯抜きだぞ。」
「そ、それは困る!」
「とにかく探そう!」

ルフィ達が****を探しに散り散りになったその頃、レストランから出てきた本人は外にルフィ達の姿がないことに愕然とした。

「…トイレ行くからちょっと待っててって言ったのに…」

意気揚々と出てきたはいいが、あまりにも寒過ぎて体中痛くなってきた****は、ガタガタと震えながら回りを見渡すが居ないものはしょうがない。人混みの中合流できるかはわからないが、会場で会えるだろうと前向きに考えることにした。
気を取り直して歩き出すと、目の前の店の中から男と熊が出てきて、その中心にいた男と目が合い****は足を止める。あれは、

「!ロー!」
「………あ?」

思わず叫んでしまい、口を両手で覆いそのままくるり、と後ろを向き引き返そうとするとぐわん、と体が宙に浮いた。

「ぎょえー!!!!た、助けて!まだ死にたくないよお!!」
「なんだ、呼び捨てにしやがるから誰かと思えば、****じゃねえか。」

長い刀の柄にコートのフードを引っ掛けられジタバタと空中で暴れる****に、ローはニヤリと口元に笑みを浮かべる。

「****!****じゃねえか!久しぶりだなあー!」
「****!会いたかったあ!」

冬仕様のシャチと、冬仕様…?のベポが****に駆けより嬉しそうに笑っている。逢えたのはあたしも嬉しいけど、下ろすよう言って、と目で訴えればすぐさま反らされた。

「ここで逢ったのはやはり俺とお前を祝福している奴がいるってことだな。獅子の女王****、お前は今日こそ正式に俺の船に乗れ。」
「誰も祝福してないし、たまたま逢っただけだし。なんであんたなんかのとこに、むさ苦しいだけじゃん!それより離してよぉ!いい加減にしないと酷い目に、」

****髪が逆立ちだしたときだ。息も切れ切れになっている金髪の青年がローの肩越しに視界に入った。あれれ、なんでここに彼が。そんなことを思うよりも先に、よく見知った仲間を見つけたことに****の髪が落ち着きを帯びていく。

「てめえ、」
「あァ?」
「うちの、いや、俺のプリンセスに気安く触るたあ、よほど死にてぇらしいな。」
「サンジ!!」

喜びの声と同時にぱぁっと嬉しそうに笑顔を見せる****の様子にローは喉を鳴らして笑うと、そうかそうかそうゆうことか、と彼女を離した。奇声と共に地面に尻餅をつけばサンジの目が炎を灯す。

「このクソやろう!****ちゅわ「今回は仕方ねえ、引いてやるよ。」
「…え?」
「その代わり、」

ふわり、と唇に触れるその感触に****の大きな目が点になった。その呆けた表情に満足そうに笑い、たった今、魂が抜けていったサンジに勝ち誇った顔を向けるロー。

「次に逢ったときは遠慮なく****は俺のもんだ、残念だな。」
「…………。」
「じゃあな****。」

呆ける****の頭をくしゃくしゃと撫で、ぞろぞろと会場の方へ歩いていくローと、あとで船に来いよ****!、ペンギンは船番なんだよ!と人懐っこい笑顔でローの後をついていくシャチとベポ達の背をぼんやり見つめていた****に我に返ったサンジが駆け寄った。ちょん、と冷たい雪の上に座っている彼女の肩を掴み顔を覗き込めば、その金色の瞳と視線が交わる。

「****ちゅわん、だだだ、大丈夫、かい?」
「あ、うん。大丈夫、びっくりしただけだから。って、な、なんで泣いてるの?!ぎゃ!鼻水!」
「お、俺ァ、****ちゅわん、俺の****ちゅわんのファーストキスが、あんな、あんな奴にぃ…!」

ものすごく切迫した雰囲気で大号泣するサンジに相変わらずきょとん、として首を傾げると、****は打ちひしがれるサンジの肩をぽんぽんと叩く。

「あたし、別にファーストキスじゃないから、安心して?」
「ああ、なんだそうか、ファーストキスじゃないならいいか……………………ぬわぁにぃいいい?!!!」
「島でみんなと居た頃、しょっちゅうだったから。」
「……………あ、そ、ライオン、ね。」

いや、でもライオンは数にいれていいのか?だって動物だぞ?ライオンとは違うし、だいたい人間で言えばやっぱりあいつが****ちゅわんのファーストキスを、や、やっぱりあいつだけは許せ、

「それにね、ナミが言ってたよ。なんとも思ってない人とのキスはキスに入らないって。」

しおしおとしおれかけたとき、サンジはピン、となにか思いついたように意地悪く笑った。

「………じゃあ、俺がしてもなんともないってことかな?」
「…へ?」
「だから、俺が君にキスしても、君は全然平気ってことだろう?」

細い顎をくいと片手で掴むと、目をぱちぱちさせてから****は僅かに頬を赤らめた。

「……さ、サンジは、だめ。」
「え?な、なんで…」
「な、なんでって、なんでって……………ら、ライオンじゃないし…」
「あいつもライオンじゃねえけど?」
「……ローは……………狼みたいなもんだからライオンみたいなもんだし。いや、ハイエナかな。」
「………(狼とライオンはエラい違うが。)」
「と、とにかくサンジはだめ!よくわかんないけど、だめ!」

ついに真っ赤になって、サンジの手を払いのけスタスタと歩いていってしまう****の小さな背がこれ以上にないほど愛しく思えサンジは彼女にばれないように頬を緩めて優しく微笑んだ。
全く脈がないと思っていたけれど、どうやらそんなことはないらしい。にやにやしながらタバコに火をつけたとき、少し振り返った****が口を尖らせながら戻ってきた。

「****ちゃん?」
「……いいよ、」
「へ?」
「…手なら、いいよ。」

相変わらず頬の赤い彼女から差し出された手をとると、互いに手袋をしていたはずだがぽかぽかと温かなぬくもりが伝わってくるような気がし、サンジは束の間の幸せを噛みしめた。


繋いだ手から、ゆるりゆるり


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