「ルーシィ、これあげるよ。」

仕事もない休みの昼下がりは寝ちゃえあああたし今悪いことし・て・る!とにやにやしながら鮮やかな金色の髪を枕にばらつかせ、瞳を閉じた時にかけられた声にルーシィは起き上がった。見ると自分しか居なかったはずの部屋にいつの間にか獅子の鬣を思い浮かべたくなるオレンジ色の髪の星霊であり恋人の青年がスーツ姿で立っている。
また勝手に来て、と思っていたのは彼への想いを自覚する前まで。今では自分の魔力を消費してまで逢いに来てくれることを素直に嬉しく思う気持ちのほうが大きい。ほにゃららんといつものように微笑みながら彼がルーシィに渡したのは一本のアイスキャンディだった。味は、色が茶色であることからチョコレートだろうと容易に推測できる。
なぜ今?しかも一本?たったこれだけを渡す為にわざわざ?と、ルーシィは唐突過ぎる恋人の登場と彼とセットでやってきた謎のアイスキャンディを訝しい顔で見つめた。

「今、冬なんですけど。」
「東洋の北の国では、冬こそアイスを食べるのが流行ってるらしいよ。最近では首都圏も。」
「ここ東洋じゃないし。てゆーかどうせ同じチョコレートならもっと濃厚なチョコレートアイスのほうがいいんだけど。」
「……濃厚、ね…ま、まあそう言わずにさ。それはそれで、あとで連れて行ってあげるから。」

せっかく買ってきたんだよ、と邪気なく(ルーシィにはそう見えた)生き生きした顔で差し出されてしまえば、なんだかんだと結局最後は彼に甘いルーシィにとって、そのアイスキャンディを受け取る他選択肢がない為小さく笑った。

「じゃあせっかくだからもらうわ。」
「うん。」

アイスキャンディの袋を開け、それを口に含むルーシィは自分の口元に注がれる視線を感じ、未だ立っているロキをベッドから見上げた。見れば彼はどこかうっとりしたような目で、アイスキャンディを食べる自分を見つめている。棒状のチョコレートアイスを口から引き抜き、怪訝そうに、なによと訊ねても彼は、別にと微笑むのみ。不思議に思いながらも再びそれをくわえると、ロキからストップ、と声がかかった。

「舌で舐めあげるように食べてみて?」
「え?」

なんで?ソフトクリームでもあるまいし。

そうは思ったが、美味しい食べ方でも教えてくれる気なのかもしれないわねと、ロキの言うようにルーシィは舌先で固い棒状のアイスをちろっと舐める。これでいいのかと聞きたそうにしているルーシィに対し首を振り、ロキは彼女の横に腰掛けた。肩をぐっと引き寄せ距離を縮めれば、みるみるうちに白い頬が桃色に染まって行く。付き合い始めて数ヶ月経つが、恋愛初心者のルーシィはこんなことでもまさに花も恥じらう乙女(ちょっと例えが違うかもしれない、がまさにそんな感じ)、でロキの心をキュッと擽る。いつもならこのままもう少し彼女の様子を伺うところだが、今日は違う。

「ルーシィ、もっとねっとり、舌に味が絡みつくくらい…舌全体を使うんだ。」
「舌全体?」
「そう、下から、上へ。」
「下から……上へ……。」

ロキに言われた通りに、先程より広く舌の面積をアイスキャンディにあて、ゆっくり、少し力を込めて下から上へねとっと舐めあげると不思議なことに、味をしっかり感じられルーシィはなるほどと心の中で感嘆した。あまりアイスキャンディが好きではない理由は味をしっかり感じられないところなのだが、この食べ方ならおいしいかも、とルーシィはもう一度それを舐め上げる。おいし〜、と無邪気に笑いながら策略にのせられていることに気が付かない可愛い可愛い恋人を薄紫色の瞳が落ち着いた色を込めて見つめている。瞳、が落ち着いているだけで、口からは涎が垂れていたり。

(や、やば…エロっ…ああ、ルーシィがあんな舌づかい…ど、どうしようどうしよう…オレンジにしようと思ったけどやっぱチョコレートにして正解だったかもっ、あんなおいしそうに…)

自分を象徴する色ならオレンジだが、ルーシィが好きなのはチョコレートのアイス。迷った挙げ句にチョコレートにして結果良好だったようだ、とルーシィに気が付かれないよう興奮を抑えつつガッツポーズを決める。あまりに刺激が強い光景に、からからに乾き始めた喉にごくりと生唾を流し込み、平静を装いながらやんわりルーシィの頬に唇をあてると、アイスしか見ていなかったルーシィの視線がロキの瞳と交わった。桃色だった頬の色はぼっと赤みをさす。

「え、あの…な、なに…」
「もう少しおいしく食べられる方法、教えてあげようか?」
「え?まだあるの?」
「そりゃあ、まだまだいろんな食べ方があるよ。」

ルーシィの手に少し垂れてきていた溶け出したアイスをティッシュでおさえ、彼女の手から代わりに自分の手に持ちかえると、ふっくらした唇にちょん、とあてがった。冷たいわよ、と文句を言いながらも恋人と過ごす甘い時間に笑みをこぼすルーシィは、どうすればいいの?とロキをきょとんと見つめる。小動物のような瞳を前に、今すぐにでも押し倒したい衝動をぐっとこらえロキは優しい声色でルーシィに口を大きめに開けるよう促した。

「そうそう、そのまま、根元までくわえて…」
「んっ…」
「吸い上げるようにしてみて?」
「ふっ………」

小さな口がゆったりと棒状のアイスを根元までくわえ込み、ルーシィは若干喉がつかえ顔をしかめたが、すぐに言われたように口を窄めながら力強くそれを吸い上げるように先端まで滑らせる。確かに彼が言うよう、溶け出したアイスが口内に絡みつきこれもまたしっかり味が残る。唇についたチョコレートを指で掬うようになぞりロキの方をちらりと横目で見ると、ロキは放心したようにどこか遠くへ視線を送っていた。

「……どうしたの?」
「あ、いや…。」
「まあいいけど。でも、ほんとこの食べ方ならいいかも。」
「あ、うん。そうでしょ、お、おいしく食べられるよね。」
「…?大丈夫?顔真っ赤だけど熱でもあるんじゃ…」
「だ、大丈夫、大丈夫だから!い、今は放っておいて!」

あまりにも真っ赤なロキを心配し手を額にあてようとする少女の細い手首を掴む。口元を片手で押さえながら立ち上がったロキに、むうっと頬を膨らましたルーシィはなによ、と負けじと立ち上がった。

(ああもう、頼むから変なとこで食い付いてこないでよ!)

自業自得とはいえ、あんな官能的な仕草を目の当たりにしてからの今、彼女に触れられればせっかく大切にしていたこの少女の貞操を無理矢理奪いかねない。どこかにそうしたい気持ちや彼女に気付いてほしい想いがあったのは否定はしない。が、そういったことに対する知識にすら乏しいルーシィを抱きたいという邪な気持ちが少しでも収まるかもしれないと企てた自分なりの理論は、見るだけで欲が満足するとたかをくくりすぎてたようだ。
今の食べ方が何を連想させどんなことに繋がるのかすら気が付かない純粋なルーシィに余計に興奮してしまい、理性との狭間でぐらつく欲をなんとか食い止めたくて、ロキは温かい紅茶でもいれるよ、といそいそとキッチンへ向かった。急によそよそしくなった恋人に首を傾げながら、教わった食べ方でやっぱりおいし〜い、などと至極ご機嫌に笑みを浮かべている可愛すぎるルーシィに、今後どんな風に純粋過ぎる彼女と事を運んでいくか、すっかり熱が集まった下半身を見てのぼせた思考で再び悩み始めるロキであった。


アイスキャンディ理論


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