実らない恋に意味はあるのだろうか。想いを育ててきた、意味は?



「まーた、勝手に出てきてアンタは…。」

おかえりルーシィ、と、へにょんと笑ってルーシィを玄関でお出迎えするのは星霊のロキ、いや、レオ。どうにもこの星霊、主の呼びつけなしに行動することが多いらしい。今日のように、当たり前のように部屋で自分の帰りを待っている彼に特別驚くこともなく、ルーシィは買い物袋をテーブルにのせ、くくっていた髪の毛を解いた。

「コーヒーはいってるよ。」
「あら、さすが気が利くー…って、ロキ!」
「どうしたの?」
「どうしたのじゃなくて!」
「紅茶のほうがよかった?」
「ともちがくて!!!」

計算なのか天然なのか、すっとぼけて話を逸らすのが上手なロキにルーシィは頭を悩ませる。いつも喉まで出掛かる言葉も、彼が合間に見せる寂しげな表情を思うとどうしたって口から飛び出すことはないのだ。

「アンタと話してると頭がいたいわ。」
「僕はルーシィと話してると楽しいよ。」

ルーシィが怒ってる顔可愛いし、などとさらりと殺し文句を恥ずかしげもなく言えてしまうところも苛々する。人の気も知らないで、と頭の中ではもんもんしても、気持ちのぶつけ方など知らない。ロキがこうして自分のところに毎日のように来るのだって、カレンへの負い目からでしかないのだろう。いくら彼に想いを寄せても返されることはないのだ。

「ルーシィ?」

ふに、と頬をつかまれて現実にかえれば甘い香りがうっすら届いてくる。テーブルの上にはケーキとコーヒーが置かれていて、いつの間にか買ってきた食材も片づけられていた。それだけではなく、特売日だからと脱ぎっぱなしにやりっぱなしで出て行ったはずのリビングも綺麗に、日常として成り立っている。これは、これじゃあまるで―

「あたし、出掛けてくる。」
「え?」
「夜まで帰らないから、じゃあ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ。ケーキが気に入らなかった?」

焦るような、寂しそうな表情、ああまたそんな顔を。だけど、その顔すら、もうこの感情を押し留める理由にはならない。

「全部よ!全部気に入らないわ!能面みたいな顔で毎日へらへらへらへらして、こんなの、あんたただの家政婦じゃない!」
「ルー「あたしは、カレンじゃないわ!あんたの、カレンにしてやれなかったこと、してやりたかったことを、押しつけられてもあたしはカレンじゃないのよ!」

ついに言ってしまった。言うつもりなんかなかったのに。子供みたいに目を丸くして悲しそうに驚くロキが頭から離れなかった。


部屋を出て行くルーシィを引き留めることもせずに、彼女のためにと焼いたケーキをラップに包んで冷蔵庫にしまう。あんな風に思わせていたとは、距離をとって接してきたのは失敗だったか、とロキは溜息をついた。

「入ってくれば?」
「―わりぃ……。」
「グレイって、貧乏くじにあたるよね。」
「…聞くつもりはなかったんだけどな。」

ん、と紙袋をロキに差しだせば、ありがとう、と主の代わりに礼を言う。たのまれていた本を貸しにきただけなのに厄介事に偶然居合わせるとは彼もまた不運である。

「…なんで言い返さなかったんだ?」
「なんだろう…今は…」

気持ちを悟られたくなかった、彼女に抱いている気持ちを見透かされるわけにはいかなかった。優しい彼女は自分を受け入れるだろう。だけど、その優しさに甘えてこんなに醜い感情をぶつけたくはない。彼女は聖域なのだ。どこまでも、どこまでも続く。

「…おまえ、そうやって放り投げようとしてないか?」
「………。」
「どうするかはおまえの勝手だけどな、大事にしてきたもの全部あきらめる気か?」

しんしんと静かに降り注ぐ雨に、私は彼を想った。大事にした、されなかった思い出が彼を縛る。誰かを救おうなんて自分にできるとは想っていなかった。それでも彼は、彼だけは―。

彼が住むのはきっと、なにもない、霧に隠された世界なのだ。




時計の針のように一方通行な想いです


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