うおぉー!!と声を上げる俺の隣で、なに?と降谷が俺のスマホを覗き、あ、と言葉にもならない声を出す。


「成宮さんと三森先輩だね」
「おう!あの2人、すげェぞ。めちゃくちゃ幸せそうでよ」
「ふうん…なんか想像できない」
「まぁお前の気持ちも分かる!あ、陽菜先輩がお前によろしくっつってたぞ」
「そう。僕も会いたかった」
「またいつでも会えんだろ!先輩、OB会のグループに入ってたし!」
「え、そうなんだ?」
「スマホをちゃんと見ろ!時代に置いていかれるぞ!」
「そう言う栄純くんはその新型のスマホをよく置き去りにしてるけどね」
「あ」
「お、春市!遅かったな」
「ごめん。道混んでて」


青道野球部OB会じゃ降谷は来れなかったからな。改めて集まろうよ、という東条の提案で今日は俺らの世代で忘年会みてェな集まり。と言っても声を掛けたその半分も集まれねェのは残念だ。降谷と春市と俺と東条と、


「おーす。冷えるな」
「金丸!お疲れ!」
「なんだ、まだ揃ってねェのか?」


俺が最後だと思ったぜ、と座る金丸。で、行けたら行くと言ってた狩場は、すまん!とさっき連絡があった。そう話すと、そうか、と残念そうにする金丸に春市が、しょうがないね、と返す。


「で、なんで君はさっきからスマホ見て叫んでたわけ?」


うるさい、って余計な一言だろ!!
キッと睨み文句を言ったところで右から左へと流されんのはいつものことで春市と金丸も、相変わらずだな、と笑う。相変わらず、がどれほど恵まれたことなのか俺は先日の青道野球部OB会で思い知ったばっかだ。

ムスッとしててもしょうがねェし、ん!と降谷に俺が叫んでいた答えであるスマホの画面を見せる。なになに、と金丸たちもそれを見る。


「あ、これって」
「あぁ。見たぜ、俺も」
「鳴さんと三森先輩の写真、SNSに載せて良かったの?」
「おう!ちゃんと許可貰ったぞ!」
「ちなみに三森先輩には?」
「へ?…あー…貰ったような、貰ってないような…?どうだったっけ?」
「俺に聞くな馬鹿!あとで問題になっても知らねェぞ」
「まぁ大丈夫だと思うよ。鳴さんも分かってただろうし」
「だよな!」
「君は反省しなよ」
「なんだと!?」
「それにしても、驚いたよなー…」


しみじみと頷きながら言う金丸に、うん驚いたって降谷お前、平然としてるようにしか見えねェぞ。俺も最初に御幸先輩から聞いた時は驚いたけどな。まさかのまさかだ。陽菜先輩があの成宮さんからプロポーズを受けて婚約したってんだからな。


「俺も」
「おー!東条、登場ー!!」
「はいはい、沢村声がデカイんだから騒がない」
「グッ…!東条が塩対応…!」
「もしかしてSNSの話題?」
「おう。成宮さんと三森先輩の写真、投稿されてるよな」
「俺も見た。良心的な投稿は三森先輩に加工されて隠されてるけど中には無加工なのもあるよね」


大丈夫なのかな、と心配そうにする東条も座りこれで全員だな。一先ずビールが揃ったところで乾杯して話の続きを春市が俺がテーブルに置いたスマホを眺めながら話し出す。


「大丈夫だと思うよ。隠そうとするならあんな堂々と街を歩かないし。鳴さん、撮られるの慣れてるから隠す手立てもあるはずなのにしないのはそういうことじゃないかな」
「確かにな」
「三森先輩にしても広報なりマネージャーをしてるから気をつけようと思えば気をつけられるはずだよ」


でもそうしない。俺が投稿した先日の青道野球部OB会での写真は日を追うごとに拡散数やいいねが増えていく。それだけ成宮さんへの関心度の高さが窺えて悔しさが胸に湧く。同じ投手としてあの人はとてつもなく遠い。追いついたと思いきやグンッと遠くへ行く。俺とは一歩の歩幅がまったく違げェ。
そんな成宮さんが陽菜先輩と笑ってる顔がこっちが恥ずかしくなっちまうぐれェの温かさと愛おしさを湛えてたってんだから新型スマホを手にする俺が撮らねェでどうすんだって使命感と、残しておきてェという衝動。と、衝動を与えられた悔しさで写真を見るたびに複雑な心情になっちまう。撮ったの、俺だけど!


「御幸先輩と3人で撮ってたやつ、あれも良い写真だな」
「あれは俺じゃねェ!気付いたら成宮さんにスマホが乗っ取られてた…!」
「また?沢村、よく先輩たちにスマホ取られてたよね」
「あぁ、あったね」
「カメラロール、またいっぱいになっちゃってるんじゃない?」


そう言う東条に苦笑いしてカメラロールを3人に見せる。事実は、うわー…という反応通りだ。誰がなんの写真を撮ったかは分からねェけど山ほどあの日の写真がある。


「そうだ。僕、広報の須田さんに言われたんだけど」
「あぁ!須田さん元気か?」
「あれ?栄純くん、須田さん知ってるの?」


須田さん?と問いかける東条に、うちの広報、と春市が答えるのを聞きながら頷く。


「1度な!前にリーグ全体で食事会あったろ?」
「あぁ、あの時」
「そ!随分と俺を気にかけてくれてさ。他球団なのに良い人だよな!」
「鳴さんが随分苦労掛けたからね…他球団の選手であっても気を配っちゃうのはもう性分だろうけど」
「なんと!あの人の薄毛はそれが原因か!!」
「それ本人の前で言わないであげてよ?気にしてるみたいだから」


苦笑いする春市に、で?と先を促す金丸が店員に料理を東条と一緒に注文する。本当、昔っからこの2人は気が利くよな。俺が好きなもんもちゃんと頼んでくれてるもんな!!


「鳴さんは随分表情が柔らかくなったな、って」
「確かに。つーかあれは柔らかくなったってよりもだらしなくなった?」
「お前な…幸せそう、でいいだろ?そこは」
「で、須田さん、三森先輩のことを知ってるんだ」
「はあ?」
「え、なんで?」


ポカンとする俺に疑問に首を傾げる東条。降谷も、なんで?とビールをちびちび飲みながらちゃんと聞いていたらしく同じように首を傾げた。
春市は東条と降谷が首を傾げた方向が同じでそれに笑ってから眉を顰める。


「三森先輩から連絡があったって。詳しくは教えてくれなかったけど、鳴さんの肩の炎症で調整が必要になったからそれまでのトレーニングのこととか、色んなことを須田さんを窓口にして聞きたかったんじゃないかな」
「なるほどな。あの人、そういうことテキパキやれそうだよな」
「うん。マネしてた時も手際が良かったよ」
「そうか?まぁたくさん助けてもらったけど、俺は御幸先輩と一緒になって怒ってきた記憶が1番強いけどな!!」
「そりゃお前だけだバカ村」
「なんだとー!?」
「まぁまぁ事実だし」
「春市まで!!」
「うん、事実」
「降谷てめー!!」


暢気に卵焼き食ってんなよ!!つーかそれ俺が頼んだやつ!!俺も食う!!飲む!!


「あ、あと。取材で鳴さんのことを絶対に聞かれるだろうから上手く誤魔化せって」
「上手く!?どうやって!?」
「駄目だこりゃ…沢村に嘘付けっても無理な話だろ」
「俺はやる時はやる男だぞ!何を隠そうもう聞かれた!」
「手遅れだったんだ…」
「仕方がない、沢村だから」
「ちゃんと誤魔化したっての!……それより面白くねェこと聞かれたからそれに怒っちまったことに叱られた…」


眉を寄せて嫌悪を思い出す俺に3人が顔を見合わせる。話したくねェから口を噤みビールを流し込む。
先日の取材で今年の総括ってことで予め用意された質問表をしっかり読み考えてきたってのに向かい合った記者からされた質問はまるで違う質問だった。戸惑いながら担当広報を見ればやれやれとばかりに首を横に振った。

成宮選手の婚約者とされている女性を沢村選手もご存知ですか!?

はあ?そりゃ知ってるけど…答える必要あんのか?それ。成宮さんの婚約者が何者であろうとSNSでもあんなに祝福のコメントが流れてる通り、みんな祝ってんだからアンタも祝う、それだけじゃ駄目なのか?
眉根を寄せて怪訝としちまった俺にこれはいけると思ったのかもうひと押しとばかりにその記者が口を開く。実は相手の女性はもう妊娠されてるとの噂もありますが、なんてデリカシーの欠片もねェことを。


「まさかやったの?」
「あ?なんだよ降谷」
「いつもの。お爺さん直伝のあれ」
「は?おま…!まさか!」
「やってねェ!!さすがに振り上げたところで止めた!!」
「手を振り上げはしたんだね…」
「でもそれだけのことを言われたんだろ?」
「…まあな。そんなにスクープが欲しいのかよ」
「それが仕事だって言えばそれまでだろうが、下衆な人はたくさんいる世界だからな。気をつけろよ、沢村」
「おう!サンキューな、金丸!」


それよりも俺はあの幸せそうな2人が悪戯に傷つけられやしないかが心配だ。
スマホの中の写真を改めて見ながら目を細める。俺の記憶にあるよりも、ずっとずっと大人っぽく綺麗になった先輩はたった1人の人の傍でもっと綺麗に笑ってた。成宮さんだ。あの日本球界始まって以来のプレイボーイと呼ばれたあの人がどうなったらああも変わるのか。幸せそうだった、本当に。2人で隣で寄り添い互いを支えてんのがよく分かった。
そんな2人を捕まえてあまつさえ妊娠したから仕方がなく結婚するんだろうと年貢の納め時みたいな言い方で括ろうとしやがって!これが怒らずにいられるかっての!!


「飲むどー!!」
「ほどほどにね。僕、送らないからね」
「俺も」
「信二に同じく」
「僕も嫌だよ」
「お前ら冷てェ!!こんな時倉持先輩だったら技を仕掛けながらもちゃんと送ってくれるか家に泊まらせてくれるぞ!?」
「迷惑掛けんなバカ!!倉持先輩も婚約者の人と暮らしてんだろ!?」
「ぬあー!!そうだった!みんなそうして俺を1人にしていくんだ!ハッ!お前らは!?まだ俺を置いていかないよな!?」


オイ!なんでみんなして目を逸して話題変えるんだよ!!

その日は忘れるどころかまた新年に持ち越す楽しい時間を過ごすことが出来た。なんとか俺があのインタビューの日に振り上げた手を記者の肩に下ろして自分でも分かるほどぎこちなく笑い、一緒に祝福しやしょう!、と無理やり締め括った成宮さんと陽菜先輩のことは2人がなんとかするんだろうと踏ん切りをつける。


「!…ほらな。こんな幸せそうじゃんか」


飲んだ酒でふわふわしながらもタクシーの中でチェックしたSNSの中にまた1つ、2人に関する投稿を見つけ笑い顔を伏せ目を瞑る。
写真が撮られた場所は分かんねェけど、撮られた2人の笑い合う姿は記者が誰に何を聞き出さなくとも真実を語ってる。



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