「アルバートさんは、私のことが嫌いなの?」
「は?」

 ヴィンセントさまが来客の方を相手にしていて、応接間に入れないので、執務室のソファに座ってしっぽをゆらゆらさせていると、応接間からアルバートさんが戻ってきて私を睨む。

「何のことです」
「だって、アルバートさんはいつも私に厳しい顔をするわ」
「……」

 グレーの瞳を少し揺らして、アルバートさんは口を曲げて私をじっと見た。
 返事を待っていると、根負けした様子のアルバートさんは深くため息をついて首を左右に緩く振った。

「別に、嫌いなわけではありません」
「じゃあどうして?」
「……メアリさまのことはご存知でしょう」
「うん」
「わたくしはもともとメアリさまに付き添ってこの屋敷に来た者ですので、貴女を見ているとどうしても……その……」
「……」
「ヒューマノイドにはこうした人間の心の機微など分からないでしょうがね!」
「えっ」

 答えを教えてもらえずに一方的にまくし立て、アルバートさんはふんと鼻を鳴らして執務室を出て行く。
 それを追いかけようと執務室を出ると、レイラがお茶を運び終えて応接間から出てきたところだった。

「ねえ、レイラ」
「何?」
「どうしてアルバートさんは私が嫌いなのかしら」
「メアリさまに似ているのが、さみしいのよ」
「……そっか」
「あんたほんとうに分かったの?」
「うん」

 半信半疑の顔をしているレイラは、はあとため息をついて廊下を去っていく。私は、自分に宛がわれた部屋に戻って鏡で自分の顔を見る。
 メアリさまをお写真以外で見たことはないけれど、アルバートさんの気持ちはきっと理解できる。そっくりだもの、嫌よね。
 鏡とにらめっこしながらちょっとだけ気持ちがふさいでいると、部屋の扉がノックされ、返事をする間もなくヴィンセントさまが入ってきた。

「どうしたの、鏡なんか見て」
「……アルバートさんは私がメアリさまに似ているのがお嫌なようです……」
「放っておけばいい。アルバートはメアリを崇拝していたから仕方ない」
「そうなんですの?」
「ああ。ミーアとメアリは別人だとそろそろ理解してほしいものだが」
「……それをヴィニーが言うんですの?」
「……なかなか鋭い指摘ができるようになったね」

 きょとんとする。ヴィンセントさまだって最初は私がメアリさまに似ているから買ってくださったのに、変なの。
 苦々しい顔をしたヴィンセントさまは、けれどすぐに笑顔になって私を抱きしめた。ヴィンセントさまの濃いはちみつのような色をした甘ったるい瞳が、しっかりと私を捉えている。
 甘えたくなって擦り寄ると、ヴィンセントさまはとても、とてもうれしそうに笑った。


20150213

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