ロットナンバーMD-009

 私のロットナンバーはMD-009。
 ご主人さまは、何も知らない私にいろいろなことを教えてくれる。正しい言葉の使い方や、ナイフとフォークの持ち方と食事のマナー、ご主人さまやメイドや執事と言ったつまり人間との接し方まで。
 ご主人さまはとても教養があってお育ちもよいので、綺麗な英語を使うと思うの。五歳児が話しているような私の言葉に語彙や表現力を与えてくれたご主人さまには、とても感謝している。

「ミーア、おいで」

 ふそり、とスツールの上でじっとしていた私の猫の耳が動く。しっぽがふわっと揺れているのを感じながら、ご主人さまが座っているソファへと向かう。ご主人さまはリラックスしたように、ソファをベッドにするかのように足を投げ出して寝転んでいて、その手前まで行って、私はどうしようかなと思う。

「ミーア」

 はちみつみたいに甘ったるい、どこかこくのある低い声で呼ばれて、私はようやくご主人さまの上に乗る。重たくないかな、と思いながら注意深く乗り上げると、その身体をぐいと引っ張られて抱きすくめられる。

「遠慮をしないで」
「でも、ご主人さま」
「そうじゃない、ヴィニーだろう?」
「ご主人さまをお名前や愛称で呼ぶことはおこがましいことだと、レイラが言っていました」
「メイドの言うことなど気にしなくていいよ」
「……ヴィニー、さま」
「さまも要らない。僕が君に何を求めているのか、知らないわけじゃないだろう?」
「……はい」

 ご主人……ヴィンセントさまは、細君を早くに亡くした。そして、ヒューマンペットのオークションにて、細君に瓜二つのわたしを見初めて、試作品だというのに高い値をつけて落札してくれた。
 とてもよくしていただいている。毎日美味しいご飯をいただけるし、ふかふかのベッドで眠ることができるし、ヴィンセントさまがお仕事をしているうちは少しは暇だけれど、私はその暇な時間勉強にいそしんでいる。
 ヴィンセントさまに褒めてもらえるように、私は一生懸命勉強している。喋るだけじゃなく、最近はアルファベットも書けるようになってきて、少しの短い単語なら、書けるようにもなった。

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