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「あの、東堂くん……」
「ん?」

 昼休み、仲間と雑誌を見ながら騒いでいた東堂くんに、声をかける。振り向いた東堂くんはチュッパチャップスを口に咥えていた。

「これ、さっきのお礼!」
「ああ、そんなのいいのに。もう具合いいの?」
「ばっちり! 借りつくりっぱなしは性に合わね……合わないので!」
「ありがとう」

 いちごミルクも手渡したし、これで借りは返したぞ。もう東堂くんと関わるのはやめよう。なんかあのキラキラオーラに吸い込まれそうでやばいんだよな。なんか、つい猫かぶっちゃうし。

「すずー、大丈夫ー?」
「もー平気、うんこしたら俄然元気なった」
「女の子がそんなこと言わないの!」

 友達の奈央があたしの前の席に座り、あたしにぺしっとチョップする。

「じゃあなんて言えばいーんだよ」
「……東堂くんとあたしでキャラ変わりすぎじゃない?」
「だって、奈央はダチじゃん」
「あー、そゆことかあ」

 ちらりと東堂くんを見る。雑誌の何が面白いのか盛り上がっている中、ふと顔を上げた東堂くんと目が合った。いちごミルクのストローを咥えている。東堂くんがにっこりと笑ってあたしに軽く手を振る。あたしは慌てて目をそらした。なんだ今の、どきって、心臓どきって、なんだ今の。

「すず?」
「分かんねぇ……」
「は?」

 奈央は不思議そうな顔であたしを見ている。あたしも不思議だった。なんで心臓こんなバクバク動いてるんだよ。なんか絶叫マシン乗る前の気分だ。東堂くんって絶叫マシン? いやいや、意味分かんねぇから、それ。

「あーもう! やめやめ!」
「きゅ、急になんだよぉ」
「考えるの苦手なんだよ!」
「知ってるよ」
「じゃあ奈央に聞くけどさあー」
「何?」
「東堂くんと目が合ったら心臓かなりヤバイんだけど、何で?」
「それは恋です」
「は?」

 こい?
 即答した奈央の顔をぽかんと見つめていると、奈央がわざとらしく咳払いをして、人差し指を立ててあたしに顔を寄せてきた。

「目が合った瞬間バチッときたら、それは恋です」
「バチッとはきてねーよ」
「でも心臓かなりヤバイんでしょ?」
「うん」
「それがバチコーンだよ!」
「マジで!?」
「マジで!」

 東堂くんに恋だと? 姫抱っこで人に恥をかかせるような奴に恋だと? 冗談じゃねー!
 もう一度そろっと東堂くんのほうを見る。いちごミルクを飲みながら友達と話しているその姿はキラキラオーラで眩しい。……あたし、恋しちった? マジで? このあたしが、恋?
 ないないないないないない! あーちゃんが北高受かるよりありえねーよ!




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