「ミキちゃ?」
「お前……無防備すぎるだろ……」
ミキは、荒くなる呼吸を隠そうと必死だったが、青子は鋭く、こんなときに限って鋭く、気がついた。
「ミキちゃん、具合悪い? 息荒いよ」
「……お前のせいだ」
「え、私? あっ、具合悪いから、帰れってことなの?」
「……」
一応、人の話を聞いて、前後関係をつなげることはできるのだな、とミキは変なところで感心してしまう。
青子の首筋に鼻を埋めると、ふわっといい香りがした。青子は普段果たしてこんないいにおいがする人間だったっけ、などとぼうっとした頭で考える。鼻の頭をなだらかな曲線にこすりつける。
「ミキちゃん?」
「……たい」
「ん? 今なんか言った?」
「青子」
「はいはーい」
「抱きたい」
「今抱いてるじゃん」
「そうじゃなくて」
ミキは、嫌われるのを覚悟で、下半身の昂りを青子に押し付けた。が、嫌われる以前に、青子にはその行動が意味が分からなかったようで、首を傾げる。そして、青子はミキの予想外の行動に出た。
「こう?」
ミキの背中に腕を回し、抱き返したのだ。いや、抱きたいってそういう意味じゃない、いやこれはこれでいいかも、いや、おい、こんなことされたら余計我慢が……などとミキが葛藤しているうちに、青子は頭をミキの肩にもたれかけさせて、ミキにぴとっとくっついた。
「ふふふ、ミキちゃんとくっついてると、なんかいいね」
「……」
「あったかい」
青子が、抱きつく腕に力をこめた。そこがミキのほんとうの限界だった。
「ミキちゃん? あ、ミキちゃん、うわ、ちょっと」
「お前のせいだ」
「だからそれ何って、うわあ」
ミキは青子をベッドの上に押し倒して覆いかぶさった。きょとんとした顔で青子がミキを見つめる。してもいいのか、いやでも……ミキの最後の葛藤を破るように、青子がぽつんと呟いた。
「あの……優しくしてね」
「……それどこで覚えてきた」
「漫画。何を優しくすんのかよく分かんないけど」
「……」
いったいどんな漫画を読んでいやがる。
そんな雑念は、青子にキスをしたら吹っ飛んでしまった。
かくしてミキは、恋焦がれた女の肌に、ようやく触れることができたのだった。
20120525
20160625
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