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「これ、おいしーね」

 ミキ特製のオムライスをぱくぱくと口に入れながら、青子はにこーっと笑う。ミキは、その笑顔の端っこについている米粒を指で拭って自分の口に入れた。いつものことだ。青子が食べ散らかすのは、いつものことで、それをミキが後片付けするのは、もうふたりの間では普通のことだった。
 現在青子は、実質一人暮らしであるミキのアパートに来ていた。青子が、ミキがどんなところに住んでいるのかちゃんと見たいと言ったからで、それをミキが了承したからなのだが、ミキは軽々しくオーケーしたことを後悔していた。
 土曜日、ミキの住む町まで電車でやってきた青子の私服が、死ぬほど可愛かったのである。駅前で待ち合わせしていたミキは、思わず青子を見逃すほどであった。それくらい、青子は予想外に可愛い服を着ていた。

「……お前さ」
「もご?」
「その服、自分の?」
「もご」

 うん、と頷いた青子は、そんだけ? と言いたげな顔で食事を再開した。
 先日青子の家に行ったときは、別に部屋のインテリアや布団のカバーにカーテンなどが可愛らしい、という印象は持たなかった。どこかさっぱりした無地のそれらに、ミキは、青子のことだからどうせ、Tシャツにジーンズというラフな格好で来るのだろうと思っていたのだ。それが、花柄のワンピースに可愛らしいサンダルに、長い黒髪をツインテールにして、女の子を全面に出していたのだから、見逃すのも無理はない。
 ミキは自分の服を見た。いつもの休日と同じく、Tシャツにジーンズである。ミキは背が高いため、ジーンズの裾直しをしなくて済むが、時々サイズがなかったりするから大変で、裾が長めにつくられているジーンズしかはかない。カーゴパンツやチノパンなど、生まれてこの方着たことがない。

「美味い?」
「うん!」

 青子が満面の笑みで頷いたので、ミキは思わず顔をそらした。可愛かったのだ。今日は、化粧もしているようだし。別にすっぴんの青子が可愛くないとは絶対に言わないが、やはり、いつもと違う、というのは男心をくすぐった。

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