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「学校帰り?」
「そうなんですよー。雅美さん、今日お仕事は?」
「ああ、今日は休み」

 雅美は美容師の駆け出しである。青子の中では、美容室イコールお洒落、という方程式が成り立っており、そして雅美はその期待を裏切らない抜群のセンスを持っている。
 と、そこで雅美はミキが自分に対して殺意のこもった視線を投げているのを敏感に感じ取った。今更ミキのことが怖いとかそういうことは言わないが、これを知らぬふりをしておくとあとあとろくなことがないのも承知の上である。

「じゃあ、私買い物あるから、またね」
「ばいばーい」

 雅美を見送ってぼんやりその背中を眺めていた青子の頭を、ミキが力強く掴む。

「どしたの」
「……あのな、俺と雅美は」
「お似合いカップルだなー。いいなー私も彼氏ほしい」
「……!」

 これはまたとない、誤解を解いて思いを伝えるチャンスなのではないか。そう思ったミキは、口下手ながらに、そして人の話を聞かない青子の性格を踏み越えるように慌てて、口を開いた。

「俺と雅美はもう別れてんだよ」

 くりんと丸い目でミキを見つめる青子に、ミキは思わずときめいた。が、今はそんなことを言っている場合ではない。必死で言葉を紡ぎ出す。

「きれいさっぱり」
「えー。そうだったの?」

 それなら早く言ってよー、と口を尖らせる青子に、ミキは昼休みに告げたことをもう一度言うことにする。
 というか、不満げにしているということはあれか、俺と雅美が付き合っていたほうがいいのか、それとも別れたということをもっと早く報告してほしかったそうしたら私……、という都合のいい話だろうか。
 明らかに後者でないのは常識的に考えて明らかだが、フィルターというものはときに怖ろしい見え方をするのである。

「俺と付き合え」
「だから、どこに?」
「いや、場所じゃなくて」
「じゃあ何に? 買い物?」
「……もういい」

 誰か!
 この子に赤い糸の結び方を教えてやってくれないか! 切実に!


20120521
20160622

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