「痛いとこ、ないか」
「なーい」
「拭けてないとこは」
「ないー」
「腹は」
「減った!」
「待ってろ、何かつくる」
ミキが、上半身裸のまま立ち上がって台所に行こうとするのを、ズボンをくいくいと引っ張って阻止する。引き止められたミキが、不思議そうな顔で青子を見る。青子はにこっと笑って、寝ている自分の横の空いたスペースをぽんぽんと叩いた。
「おなか減ったけど、もっとゆっくりしたい!」
「……」
「ミキちゃん、ここおいで!」
ミキはもう、顔がだらしなく緩むのを抑え切れなかった。可愛すぎるなんだこの生き物……!
示されたスペースに座り、青子の髪の毛を撫でると、青子は気持ちよさそうにミキの膝に頭を乗せた。
「青子」
「んー?」
「青子」
「んー!」
口下手なミキの最上級の愛情表現を、青子は知っている。
自分の名前を、ミキに呼ばれるときほどいとおしく思ったことは、今までになかった。
20120611
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