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 不満なことがひとつある。

「あ、ミキちゃんだ」
「おう」
「おはよー」
「ああ」

 下駄箱で、青子と朝から遭遇する。珍しいことだ。いつもミキが登校中に青子にモーニングコールをかけ、それで起きた青子がのろのろと準備をするので、青子はだいたい遅刻ぎりぎりにやってくるわけで、時間に余裕を持って登校しているミキと遭遇することなど、類稀なる事態なのだ。そういえば、今日のモーニングコールはさくさくと済んだ、とミキが思っていると、青子はあくびをしながら自分の教室に向かっていた。え、挨拶だけ? とかミキが若干ショックを受けているうちに、青子の背中は見えなくなってしまった。

「青子」
「なにー」

 ミキは慌てて追いついて、青子の肩を掴んだ。青子の、自分と違い華奢な体に触れるときは、ミキは細心の注意を払っているつもりではある。

「今日うち来ねえ?」
「うん、行くー」

 あっさりと了承され、ミキがぼんやりしているうちに、青子はさっさと自分の教室に入っていった。

「何してんの? おはよ」
「……おう」

 通りかかった秀哉と教室に入りつつ、ミキは少し思うところがあった。傍目には、なんだか機嫌が悪そうに見えるミキだが、秀哉には悩んでいる表情だと分かる。今度は青ちゃん何やらかしてんのかね、と思いつつ、秀哉は鞄を机の横に掛けた。

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