ドアと枠がぶつかる派手な音に、教室中の生徒がびくりと肩を震わせて一斉に入口を見る。その中に、唯一驚かずに入口ではなく男を見た女がいた。
ほわほわと男に手を振ったその女の首根っこを、男ががしっと掴んだ。
「ちょっと顔貸せ」
男が、ずるずると女を引きずっていくのを、クラスメイトたちは、またか……と思いつつ見なかったふりをした。
きれいな明るい茶髪の少し長い髪の毛をゆらりと風になびかせ、制服をこれでもかというくらいに腰で穿いて着崩したその男が、清楚な長い黒髪に規定通りに着こなした制服の女の首を野良猫をそうするように掴んで廊下を闊歩するという妙な光景が、ここ最近の西高では見慣れた光景となっていた。
「メシ」
「わーい」
ひとけのない社会科教材室に入り鍵をかけた男は、持っていた紙袋から弁当箱をふたつ出し、小さいほうを女に渡す。女はそれを笑顔で受け取り、ぱかっとふたを開けてもきゅもきゅと中身を口に詰め込み始めた。男は、自分の分を食べるでもなくじっと女を睨みつけている。
そんな熱い、いっそ怖いくらいの視線をまったくの無視で、女はおかずを次から次へと口へ運ぶ。
「おい」
「ふが?」
「もっと味わって食え」
「ふ」
うん、と女が頷いた瞬間、男の危惧していたことが起きた。おかずを喉に詰まらせたのだ。激しくむせる女に、それ見たことかとため息をつき、男がペットボトルを指し出す。一も二もなく受け取った女が、中身のジュースを飲んでぷはあと生き返ったようにため息をついた。
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