お尻を揉んだら即堕ち2コマ


「ねーねー今日はどれにする?」
「あー……」

 嵐斗くんが引きつった笑みを浮かべてあたしの手元を見ている。
 右手の指に挟んだ煙草が細かく揺れて、ベッドシーツに灰が落ちてしまった。それを視線で追いかけて、嵐斗くんは諦めたようにまだ長いそれを灰皿に押しつけた。
 あたしの左手に握られたるは、男性器をかたどったどぎついピンクのやつ。右手に握られたるは、男性器をかたどったスカイブルーのやつ。

「あのさアテナちゃん、今日はふつうに突っ込ませてくんない……?」
「え? こないだの極太がいい? しょうがないなあ嵐斗くんは」
「いや一言も言ってない」

 背を向けて大人のおもちゃ箱をがさごそとあさっていると、背後から胸を鷲掴みにされた。そのままもにもにと揉まれる。
 あん、とかわいく喘いであげると、気を良くしたのか更に揉みに熱が入る。

「ねえ〜、嵐斗くぅん……」
「ん、なに? わっ」

 向き直り、嵐斗くんのきゅっと引き締まったお尻を両手でぐわっと掴んで揉み解す。
 向かい合って、しばらく揉み合っていると、先に根を上げたのは嵐斗くんのほうだった。
 あたしの肩にぽすんと頭をもたせかけ、濡れたまなざしを向けてくる。わあ、えっち。

「アテナちゃん……ずるい……」
「んっふふ……」

 嵐斗くんの猫っ毛な明るい茶髪が肩口をくすぐって、むずがゆい。
 そのままキスして、やらしく舌を絡めながら嵐斗くんを押し倒す。無理のない体勢で、嵐斗くんも協力的に倒れてくれる。なんだかんだ言ってやる気じゃん。
 嵐斗くんはお尻を揉まれるとわりと即堕ちする。それに気づいたのはいつのことだったか。
 彼の名誉のために言っておくけど、これは決して彼の性癖ではない。あ、もちろん、素質はあったんだけどね。
 これは完全にあたしの性癖に嵐斗くんを付き合わせているかたちである。

「で……どれがいいの……?」

 期待で今にもこぼれそうになっている目元を溶かして、嵐斗くんはおずおずとスカイブルーを指差した。かわいい色なんだけどちょっとイボがえげつないのだ、こいつは。

「じゃあ、これ入れても大丈夫にするから、お尻あーんってして」

 顔中にキスを降らして甘やかしながら、嵐斗くんが自分で足を広げてくれるのをただ待つ。ややあって、ぐうと喉を鳴らした嵐斗くんが、下着を脱いで足を広げて自分のお尻を両手で掴んだ。
 今のあたしはかなり悪い笑顔を浮かべていると思う。

「イイコ」

 溶けそうな目元にちゅっとキスをして、指にコンドームをかぶせた。
 それから、乱れに乱れる嵐斗くんに、調子に乗って彼が気絶するまでぶち込んで満足したあたしは、ベッドでぐったりと目を閉じている嵐斗くんを尻目に鼻歌つきで後片付けをしていた。
 嵐斗くんは最初からお尻が好きだったわけじゃない。あたしが最初から嵐斗くんのお尻を狙っていただけの話だ。
 もともと、挿入が好きじゃない。モトカレたちが下手くそだった、というのも可能性としてはあるのかもしれないけど。
 痛みは我慢できる。ただ、入ってる、っていう異物感がどうしてもだめだった。あたしは恋人と「ひとつ」になれないのだとティーンの頃は悩んだ。カレはとっても気持ちよさそうだから、あたしに問題があるんだと思った。
 カレの気持ちよさそうな顔を見るのは好きだった。だから、違和感のあるセックスも拒否することはなかったけど、どうしてもそういうの、たぶん相手も分かるんだろうな、いつもフラれるのはあたしだった。
 そしてあたしはあるとき思いついたのだ。
 あたしが気持ちよくなれないのは変わらないけど、相手の気持ちいい顔は見たい。ってことは、あたしが男側に回ればよいのでは? と。
 思いついてから、文明の利器を使いまくって男の人を気持ちよくさせる方法をめっちゃ調べて行き着いたのが、前立腺だったのだ。

「……アテナちゃん」

 何でとは言わないが汚してしまった嵐斗くんのTシャツやタオルケットをまるめて洗濯しようと立ち上がったところで、芯のない声に名前を呼ばれた。

「ん。身体へーき?」
「うん」

 洗濯物を床に置き、嵐斗くんのそばまで行く。うつぶせになった彼の肩に入ったトライバル柄のタトゥーを撫でながら、こめかみに唇を当てて汗を吸った。
 鋭い目つきをふにゃりと蕩かして、嵐斗くんはふにゃふにゃのおぼつかない口調のまま喋りだす。

「……あのさ、約束してよ、今度はふつうのえっちしたい……、アテナちゃんのことも気持ちよくしてあげたいし、俺もふつうにちんこで気持ちよくなりたい……」
「うーん、でもさ……嵐斗くん、今更おちんちんだけでイけると思う?」
「……。……え、マジで?」

 口の端を引きつらせた嵐斗くんが、毛布に隠れた自分の下半身をちらっと見て、あたしの顔を見て、もう一回下半身を見てあたしの顔を見て。

「え……?」

 さあっと分かりやすく顔から血の気が引いていく。
 入れられたくない、っていうのはもちろんあるけど、正直なところこれもかなり本音である。嵐斗くん、今更前の刺激だけでイけるわけないじゃん、ドライでイけるくせに。

「え、じゃあ俺これからどうすればいいの!?」
「どう……って?」
「女抱けないとか生きてる意味ないじゃん」
「……嵐斗くん、あたし以外の女の子とえっちする予定あんの?」
「ないけど!」

 正直嵐斗くんが何を危ぶんでいるのか分からない。ドライでイける嵐斗くんと、突っ込みたいあたしで、完全にウィンウィンじゃん。

「あたしは嵐斗くんを抱きたい。嵐斗くんはお尻で気持ちよくなれる。だったら、問題ないじゃん?」
「…………いやそういう問題じゃない……」
「えー? どういう問題ぃ?」

 所詮他人のあたしには、嵐斗くんの頭の中なんて分からない。
 でも、なんかどうやら嵐斗くんにはかなり、かな〜り思うところがあるみたいで……。
 よく分かんないけど、じゃあ百回に一回くらいは抱かせてあげてもいいかなあ……別に嵐斗くんに悲しんだりしてほしいわけじゃないし……。
 でももう前だけじゃ満足できないと思うんだよなあ……。

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