あなたの元へ還りたい
01
倒れた。って、どういうこと?
あたしと比奈が事態を飲み込めないでいる中で、拓人さんはなんだか嵐のようだった。
青ざめ、怒り、うなだれて、そのあと、こうしちゃいられねぇとばかりにばっと顔を上げた拓人さんは、校門に横付けしていたワゴンに乗り込んで「リノ、今度はデートに誘いに来るから」と決め台詞のようなものと投げキッスを残して去って行った。
ようやく散りはじめた人だかりにひとつため息をこぼし、隣の比奈に話しかける。
「……なんだったんだろうね。っていうか、先輩大丈夫なのかな……あれ?」
いない。隣にいるはずのちびっ子がいない。そりゃあもう忽然と、嵐がもたらす竜巻に飛ばされたかのように。
「……まさか」
嵐の去った方向を呆然と眺め、あたしは大きくため息をついた。
◆
アクセルを精一杯踏み込んで、目的地を目指す。……赤信号になりかけだけど、これはいけるな。黄色から赤に変わりかけた信号を急いで通過した。
「あ! 信号無視ですよ!」
「分かってるさ、でもはやく着いたほうが……」
……ん?
「……ヒナ!?」
「はあい!」
「どうしているんだ!」
「後ろのドアが開いてたからです!」
まるで「そこに山があるから登るんだ」とでも言いたげだ。開いていたら勝手に乗ってしまっていいのか?
ミラーを見ると、唇を尖がらせて眉を寄せたヒナがぶつぶつ何かぼやいている。……ああ、そうか。
「ヒサトが心配か?」
「当たり前です!」
そうだろうな。よく考えれば当たり前だ。ヒサトのことが心配なのは俺だけじゃない。ヒナのように車に乗り込みこそしなかったものの、リノだって心配しているに決まっている。
「先輩どこにいるですか?」
「F市だ」
「F市? なんで?」
F市は、学校から車で一時間ほどかかる小さな、特に何かがあるというわけでもない町だ。彼女が不思議に思うのも無理はない。
「ヒサトの……故郷なんだ」
「ふーん。まだ着かないですか?」
「まだだな」
「もー!」
「こら、危ないだろう!」
ヒナが運転席を後ろから思い切り蹴った。予想外の衝撃に思わずハンドルさばきが狂いそうになる。怒鳴るとしゅんとして、ふてくされたように後部座席に横になった。ミラーからスカートの中が丸見えなんだが……。可愛いのをはいているな。
時折思い出したように暴れだすヒナをなだめなだめ、車はF市に向けて進んでいった。
「着いたよ、ヒナ」
「はい!」
病院の駐車場に車を止め、ヒナを促すと、元気な返事とともにドアが開いて飛び出した。そのまま病院の玄関に突撃していくヒナを慌てて追いかけて腕を掴んで落ち着かせようと口を開く。
「ヒナ、落ち着いて……」
「拓人!」
「ルカ……」