ギリシア彫刻が微笑う
09

「うち寄る?」
「タマちゃんいる?」
「たぶん」
「じゃあ行くですよ」

 この夏休み中に、手をつなぐ程度の接触なら、頬を赤らめるだけで済むようになった。ので、いつものように何も意識せず隣でぷらぷらと揺れている手を握る。俺を見てきゅっと握り返してきた小さい手が、嬉しいでも楽しいでもなく、ただ少しくすぐったかった。
 校門を出るまで、いや出てからも、俺と比奈ちゃんは周囲の奇異の視線にさらされていた。この痛い視線に、比奈ちゃんはどうして気づかないのだろうか。というか、俺が女の子と手をつないで歩いているのはそんなに珍しいことなのか。……いやでも考えれば、女の子と手をつないで歩くなんて、ほとんどしたことないかもしれない。

「んーんーんんー」

 ご機嫌そうに、つないだ手を振りながらハミングする比奈ちゃんは可愛い。どうして今まで自分の気持ちに気づかなかったのか不思議なくらいだ。
 しかし肝心な問題がひとつだけあって、そこが一番問題なんじゃないかと俺は思うのだが、逆にまあまだいいかと思ったりもしている。つまり、性的なことだ。比奈ちゃんにほとんどと言っていいほど、そういうアンテナが反応しない。こうも純粋無垢だと手が出しづらいというのももちろんあるが、好きは好きだがまだそこまで気持ちが育っていないのだろう。……もしくは、育ちすぎて老成したとか? だって特別好きじゃなくても女の子と寝るなんて平気だったのだから。