ギリシア彫刻が微笑う
03
人のよさそうなおじさんがパソコンの前に座って、俺たちにどういう物件がいいのか問う。拓人が浅岡地区近辺でなるべく安いところと言うので、俺は隣ですかさず曰くつきでもいいから安いところはないか聞いた。
「曰くつきですか……」
「家賃が安いなら幽霊が出てもなんでもいいです」
「ヒサト……」
「うーん……そうですね……」
おじさんがパソコンをかちゃかちゃやって、困ったように首をかしげた。
「あるにはあるんですけど……ちょっとここは……」
「ここは?」
「破格の家賃なんですが、お勧めできないですねぇ……」
「いくらですか?」
「四万五千円とお安くなってるんですけども」
「そこ、見に行ったりとかできます?」
「おいヒサト……大丈夫なのか?」
がしがしと頭を掻いたおじさんが、とりあえず見に行くかと聞いてきたので頷く。横では拓人が不安そうに言葉を漏らしているが、無視だ。
移動中に詳しく聞けば、地理的には高校からほど近いようで、駅にもわりと近く便利な場所だと言う。駅に近いのに四万円台、しかもそれが売れないということは、相当ものすごい曰くがありそうだが、正直なところ前住民が自殺していようと幽霊が出ようと、俺の生活にはなんら支障がないのだ。拓人はおじさんのあまりの渋り方にすっかり困惑しているようだが、彼が住むわけではないのでそんな反応は意味がない。
「こちらです」
「あれ、わりと新しいんですね」
何の変哲もないアパートに、ちょっと拍子抜けする。てっきり錆びた鉄筋のボロアパートか木造建築なんかを想像していたのだが。普通の外観に拓人は少し安心したような顔をしていた。
二階の角部屋に案内され中に入ると、中もわりときれいで日当たりもいい。悪くない物件じゃないか。普通の1Kにロフトがついていて、風呂トイレは別だ。なんだこの穴場物件。
ほとんど決まりかけていた心に、おじさんが待ったをかけるように、申し訳なさそうな顔でロフトに続く階段の裏を指差した。
「えー……こちらにお札が……」
「あ、ほんとだ」
「あと、洗面所にも二枚ほど……」
「それ、見えるところに?」
「いえ、洗濯機を置けば隠れてしまいますけど」
「曰くって、それだけ?」
「……」