海に恋して君に恋して
03

「赤がない!」
「先輩すごいじゃないですか」

 横から覗き込んだ比奈ちゃんが、自分が教えたわけでもないのに嬉しそうに叫ぶ。
 俺は密かに、けちょんけちょんに貶し虐げるのが趣味のような梨乃ちゃんの賛辞に感動していた。もちろん褒めてもらえて嬉しい、という気持ちもあるがそれよりも、梨乃ちゃんが人を褒めている……というその事実への感動だ。

「ま、あたしが教えたんだから、これくらいはとってもらわないと」
「ありがと」

 三人で自然と並び中庭を横切りながら、しばらくテストの話に花を咲かせる。ふたりの成績表を見せてもらえば、入学するだけでも大変な浅岡高校の理数科のテストで、梨乃ちゃんは百二十七人中十九位、比奈ちゃんに至っては単独一位であった。
 比奈ちゃんは主人公の気持ちを読み取るような設問が苦手だと思っていたのに、現代国語の点数は九割を超えていた。

「世の中不公平だなぁ……」
「比奈、お勉強好きだもん」

 正門をくぐり、蝉がやかましくわめく住宅街を、のんびりと進む。直射日光とアスファルトの地熱に挟まれて、汗はどろどろと滴り落ち、ぽつりと見えたコンビニの誘惑に負けそうになる。

「アイスーアイスー」

 いや、いち早く負けた子がいました。
 比奈ちゃんが、ふらふらとコンビニのほうへと体を傾ぐ。それを追って俺もコンビニに入った。