海に恋して君に恋して
02

「桐生」
「はい」
「カンペ出せ」
「実力です」
「お前の隣の席は確か、二ノ宮だったな」
「だから、実力です」

 来週から夏休み、という、学校全体がなんだか浮き足立っているようなこの暑い時期。俺は、地球環境まるで無視の涼しさを誇る職員室に呼び出されていた。
 理由は、期末考査においての突然の不可解な成績アップだ。梨乃ちゃんにみっちり教えてもらったかいがあった。と言うか、あれだけ彼女を使っておいて赤などついた日には、生命の危機である。
 それにしても、成績が下がったならともかく上がったのに呼び出されるとは、俺は日ごろの行いがよっぽど悪いらしいな。

「……まあ、留年がかかってたら、お前もがんばるんだな、やっぱり」
「そりゃあ、まあ。夏休みまで先生たちの顔見て過ごしたくはないですし」

 担任は、どうやら本気で俺のカンニングを疑っていたわけではないようで最終的には納得してくれた。

「言ってくれるな……、ああそうだ、お前三者面談、本当にいいのか?」

 そしてどうやら本題らしいことに足を突っ込んだので、俺は露骨に顔をしかめて見せた。

「都合がつかないみたいなので」
「それならせめて電話か手紙だけでも……」
「いいんです。俺の将来になんか興味ないでしょうから」
「あのなぁ」
「用件済みました? さよーなら」
「あ、こら」

 床に置いていた鞄を肩に担ぎなおし、担任の引き止める声を背に、俺は職員室をあとにした。
 いくら教師の義務とは言え、しつこい。そもそもこんな人間の進路など話してなんになると言うのだ。
 卒業したらフリーターになって適当に生計を立てて、早いうちにどこかで死んでしまえればいい。今こうして生きている理由すら分からないで、どうして将来のことなんて考えられるだろう。

「先輩」
「こんにちは!」

 昇降口を出たところで、声をかけられた。視線をやると、暗い金髪を頭上で大きな団子に結った梨乃ちゃんと、いつもの飴色のショートヘアの前髪を飾りピンで留めた比奈ちゃんが、心持ち早足で寄ってくるところだった。

「テスト、どうでした?」
「ああ、はい」

 興味津々で手を出す梨乃ちゃんに、一枚の紙を渡す。
 うちの学校は、採点され終えた解答用紙は各授業で返却されるが、それとは別に、すべての科目の点数、平均点、順位などが印刷された考査成績表と呼ばれるものが配られる。今日は、成績表の配布日だったのだ。
 ちなみに、俺の順位は普通科二年百七十二名中、同率六十三位だった。まあ、悪くない。