OMAKE
星降る夜に

 今日は、流星群が見られるんだって。って、比奈がなんかすごく楽しそうにはしゃいで言っていた。
 流星群って……あの流れ星がいっぱいあるやつ? こんな都会でほんとに見られるの? 流星群が?
 明日は日曜日なので、比奈がうちに泊まりにきた。そして、夕ご飯を食べてお風呂に入って、言う。

「流星群が、見たいです!」
「……うん」

 見たいです。って言われても、俺が降らせるわけじゃないし……。
 結局、夜中だから危ない、でも見たい、の一悶着があった末に、絶対俺とつないだ手を離さない、という約束で近所の緑地公園に行くことになった。ちょっとほかよりも小高いところにあるけど視界が開けていて、流星群を見るならあそこだと思ったのだ。
 比奈が着てきたふわふわのポンチョの裾からちょこんと出した手を握って、夜道を歩く。比奈はご機嫌だ。

「ほんとに、見れるの?」
「信じる者は救われるですよー」
「何それ」

 それにしても、寒い。もう秋なんだな。
 緑地公園に着いて、なるべく高いほうがいいってことで遊具に上る。ジャングルジムとか言ったっけ、これ。
 はあっと息を吐くと白く染まる。俺は馬鹿だからなんで寒いと息が白くなるのかよく分からないんだけど、嫌いじゃない。けっこう情緒的。

「いつ降るの?」
「んー……分からないです」
「えー」
「人事を尽くして天命を待つのですよ!」
「さっきからそれ、なんなの?」

 ぼけっと、手をつなぎながら空を見上げている。秋の空はわりと澄みきっていて、星がきれいだ。冬になったらきっともっときれいで、田舎に行ったらもっともっときれいで、夜空ってほんとうはいったいどれくらいきれいなんだろう。
 しばらく待っていると、比奈が、あっと声を上げた。

「見えた?」
「分かんないです。今、しゅって。あっ、あ!」
「あっ」

 しゅん、と流れ星が一筋黒い空を流れて消えた。それからまた、もう一つ白い筋が短く流れていく。

「わああ!」
「すご……」

 結局、見られたのはその二本だけだったんだけど、流れ星って普段見ないし、とてもきれいで驚いた。
 俺と比奈は、もう流れないのをなんとなく分かってて、それでもしばらく夜空から目をそらすことができなかった。
 ふと、腕時計を見る。もうこんな時間。

「比奈、帰ろう」
「も、もうちょっと」
「んー……」

 結局比奈がジャングルジムを降りたのは、それから三十分くらいは経ってから。ああ、明日ねぼすけ確定。

「きれいだったね」
「はい! あっ」
「何?」
「お願いするの、忘れちゃった」
「ああ……何お願いするつもりだったの?」
「……内緒」
「ふうん」

 比奈が、小さくあくびをした。やっぱり眠いんだ。
 部屋に着くと比奈がポンチョを脱いで、ハンガーにかける。それから、二人でスウェットに着替えて、ベッドに入って電気を消す。

「ねえねえ、先輩」
「ん」
「また、見ようね」
「……ん」

 またがあることがうれしいとか、そういうちっぽけな約束が俺を安心させているとか、比奈は知らないから。
 今度、があったら、俺は願うよ。比奈が幸せになりますようにって。


20131008