OMAKE
お姫様、お手をどうぞ

「……」
「あははは」
「笑うなです!」

 ぷくっと頬を膨らませた比奈が、俺の胸をべちっと叩いた。

「最初から分かりきってたことじゃん」
「むむむ……」

 比奈の好きなブランドのショップで、可愛いペイズリー柄のマキシ丈ワンピを見つけた比奈は、目を輝かせて試着室に入っていった。
 で、出てきた比奈の姿は……ご想像に難くないと思います。
 ずるずると裾をひきずって不満げにしている比奈を笑うと、ぷすっと膨れてしまった。

「諦めなよ」
「いやだー!」
「じゃあどうするの」
「……おうち帰って、裾切るもん」
「ああ、そう。ふふ」
「笑うなですっ!」

 べちべちべち。比奈が俺の胸に張り手をかましてくるが、まったく痛くない。

「そんなにこれほしいの?」
「可愛いです! ほしいです!」
「ふーん」

 俺はどっちかって言うと、ミニ丈のほうが好きなので、マキシ丈が流行っているのはちょっといただけない。いや、大抵の男がそう思ってると思いますよ? 俺だけじゃないと思うよ?

「他には? もういいの?」
「んーまだ見る」
「あ、そう。すいません、これキープで」
「かしこまりましたー」

 ワンピースをスタッフに渡して、俺は比奈のあとを追う。結局そのあと、比奈は可愛いプリントのTシャツを買って、その店をあとにした。
 電車に乗って、家まで歩いてマンションのロビーで暗証番号を入れる。オートロックが外れて、俺たちは最上階へ向かうため、エレベーターに乗った。

「でもさあ、切ったらデザインに支障出ない?」
「うっ、だ、大丈夫ですよ……たぶん」
「比奈、裁縫得意だっけ?」
「あんまり……」

 しゅんとしてしまった比奈の頭を撫でる。それと同時にチーンと音がして、エレベーターのドアが開いた。
 部屋に入って、比奈が今日の収穫をリビングに広げる。あの店だけじゃなく、他の店でもいろいろ購入したので、ちょっとした展示会だ。そして、比奈が件のマキシ丈ワンピを持って唸る。

「むむむむ……」
「……あ、そうだ」
「む?」
「拓人に頼めばいいよ」
「う?」
「アイツ、裁縫ってか服とかつくるの得意だしさ、それが本職な感じもあるし」

 比奈はしばらく首を傾げて考えて、くしゃっと笑った。

「そうするです!」
「明日の撮影、おいでよ。拓人も来ると思うし、なんだったらスタイリストさんに頼んでもいいし」
「やったー!」

 比奈がワンピースを持ったままくるくる回る。そして俺のほうに突撃してくる。

「わっ」

 思わず両手で受け止める。比奈は至極ご機嫌そうだ。鼻歌つきである。例の、りんりんとーってやつだ。俺は未だにその曲の名前を思い出せずにいる。


 翌日、拓人に裾直しをしてもらった比奈は、ご機嫌で俺の撮影を見ていた。


20100513