OMAKE
おしっこ
俺は急いでいた。なぜなら、半泣きの比奈から電話があったからだ。
『彩ちゃんが大変なのぅ』
詳しく事情を聞こうかと思ったが、彩奈の泣き声にかき消され、通話も途切れた。
「比奈!」
「あっ、さっちゃん……!」
「彩奈がどうしたの?」
「ううっ……」
退院したばかりで、今日からようやく彩奈のこの家での生活がはじまる、というときに、いったい何が起こったのだろう……。
すよすよと眠っている彩奈に、異常は見られない。俺は、比奈にもう一度問いかけた。
「彩奈が、どうしたの?」
「お、お、」
「お?」
「おしっこが……」
「おしっこ?」
「水色じゃない……」
「……え?」
俺は耳を疑った。おしっこが、水色じゃない……? どういうことなんだ?
ちょっと落ち着け、俺、比奈の考えていることを理解するんだ俺……。
「どういうこと?」
「だってね」
べそをかきはじめた比奈が、涙目で説明してくれる。
「CMで、赤ちゃんのおしっこはみんな青いのに、彩ちゃんのおしっこ黄色いの……」
「……」
「病院に行ったほうがいいよね……」
え、何? おしっこが黄色い? 病院? てか、比奈何言ってんの?
「……比奈」
俺は、比奈の両肩を掴んで、目を合わせた。
「あれは……分かりやすくするために青い水を使ってるだけなんだよ」
「……」
「全人類、赤ちゃんだろうがおじいちゃんだろうが、日本人だろうがイタリア人だろうがおしっこはみんな黄色い」
ぽけっとしている比奈の顔が、ぼんっと真っ赤になった。それからたじたじぼそぼそと言い訳をはじめる。
「そ、そんなの知ってたもんね……知ってたもん……」
「……」
なんのために急いで帰ってきたのか……。
彩奈が、目を覚まして俺を見てにこっと笑った。
20110521