愛を育んだ先にある物
07
ごろごろにゃんと甘えてくる比奈を、思い切り甘やかす。
今日は仕事が休みで、俺はベッドに寝転んで、のしかかってくる比奈の頭を撫でたり軽いキスをしたりして過ごしていた。ぎゅっと抱きしめると、細い身体が一瞬硬直して、安心したように力が抜かれる。
「お昼ご飯、何にしようか」
「んー……」
実は朝ごはんも食べずにずっといちゃついていたから、けっこう腹は減っている。それは比奈も同じなのか、おなかを押さえて考えるように視線をうろつかせた。
「ケンタッキー食べたい」
「注文する? こないだチラシ入ってたよね」
「やったー!」
比奈を抱っこしたままベッドから起き上がり、俺はダイニングへ向かう。比奈を椅子に座らせて、チラシを入れている棚をあさる。
「あった。何食べたい?」
「比奈ねービスケット食べたい!」
「チキンは?」
「食べる!」
電話を済ませて、俺は着替えるために寝室に戻った。比奈は俺のTシャツ一枚だ。まだむし暑いからそれでいいが、これから寒くなるから、その癖はやめさせなければならない。
ポロシャツにジーンズを合わせてダイニングに戻ると、比奈は椅子に座って上半身を折り曲げて机に突っ伏していた。
「何してるの?」
「んー……考え事」
「何考えてるの?」
「内緒!」
「そう……」
足をぷらぷらさせながら、比奈が難しい顔をした。口を真一文字に結んで、目をぎゅっと閉じている。可愛いな。
カッと目を見開いた比奈が、口を開く。
「……先輩は」
「何?」
「ううん、なんでもない……」
なんだ、気になるな。唇を尖らせて、何か考えている比奈は、俺には聞き取れないような音量でぶつぶつと喋っている。
「何?」
「……先輩は、……赤ちゃん、いらない?」
「……」
そのことをずっと考えていたのか?
俺は、比奈の言葉に考え込む。こどもが欲しいかと聞かれたら、たぶんイエスと答えるだろう。でも、育てるとなったらノーと言うかもしれない。赤ん坊にどんな愛情を注げばいいのか分からない。
「いらないとか、いるとかじゃなくて……」
「……」
「ただ単純に怖いんだ、親になるのが」
「……比奈がいるよ」
「え?」
比奈が、真剣な顔で俺を見つめている。
そこへ、インターフォンのチャイムが鳴り響いた。俺は弾かれたように立ち上がり、インターフォンを取った。デリバリーがきたのだ。オートロックを開けて少し待つと、部屋直通のチャイムが鳴った。俺は比奈を残して玄関に行き、品物を受け取って戻ってきた。