愛を育んだ先にある物
06
「とりあえず、真中先輩の家から赤ちゃん借りてくるとかどう?」
「それじゃ駄目だよ! よその子じゃん!」
「それもそうか……」
あたしは自分の腹を撫でた。不安はあるけど、心配はしていない。拓人さんとふたりで育てていくんだって、自信がある。それは、あたしたちが幼少期に正しく愛情を受けてきたからで、先輩にはそれがないから自信がない。
どうしたらいいのか分からなくて、あたしはさじを投げた。
「あたしには分かんない」
「梨乃、協力してくれるってゆったじゃん!」
「でもさー……所詮あたしの問題じゃないじゃん。あんたと先輩の問題でしょ?」
「うっ……」
ミルクコーヒーをすすった比奈が、顔を歪ませる。泣くかな……。
泣きはしないものの、比奈は眉を下げてため息をついた。
「どうしたらいんだろ……」
「とりあえず、比奈は先輩に優しく接するべきだね」
「比奈いつも優しいよ!」
「うん、知ってる」
「むむっ」
比奈が口をすぼめたそのとき、玄関が開く音がした。はっと比奈の顔が明るくなって、立ち上がって廊下を駆けていく。
「お帰りなさい!」
「ただいま」
「リノ」
「あれ」
尚人先輩が、拓人さんを連れて帰ってきた。比奈は先輩の腕に絡みついて離れようとしない。レイプ未遂事件から、比奈は先輩にべったりになるようになった。尚人先輩の顔がにやにやと締まりないのは、そのせいだと思う。
拓人さんがあたしの頬に挨拶のキスをする。前は比奈にもやっていたけど、怖がられるからしなくなった。
「リノ、病院の時間だ」
「え、もう?」
慌てて時計を見ると、たしかに予約時間に迫っていた。あたしは立ち上がって、拓人さんの横につく。
「梨乃、ばいばい」
「またね」
「ばいばーい」
比奈と先輩に見送られ、あたしたちは部屋を後にした。
「ヒナと何話してたんだ?」
「内緒」
「なんだ、つまらないな」
笑いながら、彼はあたしの腰を抱いた。身長差は十五センチもないが、あたしは拓人さんと話すとき上を向かなくてはいけない。
「先輩のことですよ」
「ああ、こどものことか」
「聞いたんですか?」
「一応、少しな。妙なことで悩むものだな」
「あなた、全然分かってない」
「そうか?」
あたしはため息をついて拓人さんから顔をそむける。それをぐいと少し乱暴に戻されて、荒っぽいキスが落ちてきた。
◆