小さい人と欲しいもの
06

「先輩、今年も休みだね」
「……うん」

 十月十六日。最近は単位のために毎日来ていた先輩が、学校へ来ていない。おそらく、お母さんの墓参りに行ったのだろう。それにしても、電車を使えば三十分程度で着くそこに、なぜ学校を休んでまで行くのか、よく分からない。
 肌寒くなってきた空の下で弁当を食べていると、携帯が震えた。見ると、拓人さんからの電話だった。

「もしもし」
『ciao!』
「何か用事ですか?」
『いや、実は、俺はこれからヒサトの母親の墓参りに行くんだが、ヒナはそこにいるかい?』
「いますよ。代わりますか」

 電話を比奈に代わると、比奈は目をぱちぱちさせながら拓人さんの言葉に耳を傾けている。うん、と拓人さんには見えないのに頷いて、比奈は電話を切った。

「拓人さん、なんだって?」
「これから先輩のお母さんのお墓参りに行くけど、一緒に行く? って」
「それで?」
「行く!」
「午後授業あるのに」
「たまには、さ、さささぼっちゃう……もんね……」

 尚人先輩とサボるときは、なんの躊躇もないのに、共犯者がいないと比奈はサボることに相当抵抗があるらしい。それでも、墓参りが勝ったわけだ。尚人先輩、強いな。
 まあ、去年のこともあるし、当然と言えば当然か。
 もうすぐ拓人さんが迎えに来るらしいので、比奈はむぐむぐと残った弁当を急いで押し込み、いちご牛乳で飲み下して立ち上がった。

「そういうわけで、比奈は風邪で早退します!」
「いってらっしゃーい」

 ぴゅーんと風のように屋上をあとにした比奈に、あとから笑いが漏れる。どんな顔をして教室に荷物を取りに行くのか。途中で教師に会ったらどんな顔をして早退を告げるのか。見ものだ。
 弁当を片付けて屋上のフェンスから中庭を見ると、ちまちまと駆け足で校門へ向かう比奈の頭が見えた。

「比奈ぁ」
「あっ、梨乃っ、ばいばいっ」
「気をつけてね」

 比奈が上を向いてあたしに手を振った。気をつけてね、と言った瞬間転びかけ、思わずフェンスを握った。言わんこっちゃない。