小さい人と欲しいもの
01
九月恒例のスポーツ大会は、今年も無事に幕を閉じた。
今年俺は徒競走と綱引きで、徒競走はもちろんびりっけつ、綱引きで負けたのは、別に俺のせいというわけではない。チームが弱かっただけだ。
比奈は今年も障害物競走に出ていた。二位と、去年より好記録だったことに満足していたようだ。
そういうわけで、そろそろ朝夕は冷えるようになってきた九月の終わり、比奈がある知らせを持ってきた。
「結婚?」
「うん! あーちんと!」
「あーちん?」
あーちゃんならどこかで聞いたことがあるような気がするが、あーちんは初耳だ。
お兄さんとあーちんさんが結婚式を挙げるらしい。そのあとのパーティに俺もどうかという話だ。なんでも、招待状を持っている人と一緒なら誰でもOKという心の広いパーティらしい。
「比奈、招待状持ってるから、先輩も一緒行こ!」
「ああ、うん」
断る理由は別にないので、頷く。
あのお兄さんのことだから自分のことなんて二の次かと思ったら、結婚とは。意外と抜け目のない人だったのだな。
ちらっと比奈のウェディングドレス姿を想像してみる。フリルがたくさんあるやつのほうが似合ってるよね、きっと。それでめちゃくちゃ長いヴェールをひきずって……。
「せんぱあーい?」
「あ。うん」
「来週だからね!」
「うん」
あーちんさんこと東条亜美さんは、比奈ほどではないが小柄で、硬水が好きな明るいお姉さん的存在らしい。よく買い物に一緒に行ったりもするそうだ。お兄さんとの付き合いは高校生の頃からで、もう十年近くになるらしい。
手をつなぎながら、比奈のマンションまでの道のりをゆっくり歩く。マンションが見えてきた頃、比奈が急につないでいない左手をさっと上げて振った。
「あ、比奈ちゃん」
「あーちん!」
噂をすれば。亜美さんの登場だ。
黒くて艶のあるまっすぐな髪の毛を右寄りに軽く結わいて肩に流している。眼鏡をしているからか、瞳は理知的な光を放ち、小さな鼻にたっぷりとした色気のある唇。痩せても太ってもいない身体が、クリーム色のカーディガンにくるまれている。
「お、噂の彼氏くんかな?」
「はじめまして」
「はじめまして。私東条亜美」
「桐生尚人です」
「比奈ちゃん、こんなカッコいい男の子捕まえるなんて、隅に置けないじゃん」
「うん……」